デザインの力で地域やジャンルを越境!デザイナーが考える産地越境の仕掛けを大公開
こんにちは。さわです。
長浜市で生産されている高級な絹織物「浜ちりめん*」をご存じですか?
※浜ちりめんとは、100%生糸を使用した絹織物。長浜市の伝統的な地場産業です。染呉服用白生地の最高級品とされています。
生地を作るためには大量の水が必要になります。長浜市の水の供給源といえば、日本一大きな湖「琵琶湖」と、日本百名山の「伊吹山」の伏流水。琵琶湖と伊吹山があるからこそ「浜ちりめん」という伝統的な地場産業が受け継がれてきました。
ある日の編集会議にて。
さわさん。今度、この取材に行ってみませんか?
産地越境…?何なんですか、これは?
全国の伝統工芸に関わっている人たちが来て、ものづくりのこれからについて考えるプロジェクトなんです。
面白そうですね!教育の仕事にも他府県の方々の考え方や、教育以外のスキルを掛け合わせていく方法は参考になりそうなので、潜入したいです!
そんなこんなで、会場に行ってみると…。
タカさんがいる!?
なんとこのプロジェクトは、航海記の船長であるタカさんが企画をされていたのです。
それならそうと、早く言ってくださいよ〜!
そこで今回は、企画者であるタカさんに、プロジェクトへの思いや企画のこだわりについて聞いてきました。
石井挙之(タカ) | 株式会社仕立屋と職人
千葉県出身。2017年に地域おこし協力隊として長浜市へ移住。「職人と一緒に日本のものづくり文化をスパークさせる」をビジョンに株式会社仕立屋と職人を設立。武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科客員准教授も務める。長浜航海記の船長。
今回のプロジェクト「産地越境」は、シルクのまちづくり市区町村協議会事業の一環で開催されました。当日は一都一府九県、総勢50名のものづくり従事者や自治体職員が参加しました。
職人の伝統に対する熱い想いに触れたり、伝統を守り未来に残そうとしている姿を見たりすることで「伝統産業に関わる方々ってかっこいい」とメロメロになった1日でした。
産地が直面する課題をみんなで紐解きたい!
今回の産地越境はどういう経緯で開催したんですか?
元々は、シルクを産業としている自治体が参加する勉強会だったんです。
そうだったんですか!全然勉強会っぽくなかったです。
シルク産業の自治体の職員が集まる協議会のイベントで「長浜シルクについてパネルトークをしてほしい」と長浜市から相談があったんです。
パネルトークの相談があって、タカさんはどうしたんですか…?
僕が話をするのはいいけど、長浜シルクの話を聞いてもらうことだけが、本当に次につながることなのかなと思ったんです。
タカさんはどうすると次につながると思ったんですか?
長浜市の担当者と浜ちりめんの職人たちがいる席で「全国色々な方々と会えるなら、どんな会にしたいですか?」って聞いたんですよ。そこで出てきたのが、産地が直面している課題感のお話でした。
そうだったんですね…。産地はどんな課題感を持っているんですか?
これまでの生産工程が合わなくなってきているんです。
もっと詳しく聞きたいです!
ものづくりの製造ラインを川上、川下と例えるんです。
川上は、素材を作っている人たち、川下はものを買うお客さんに1番近い人たちのことを言います。
お客さんに近い…?着物にして販売する人っていうことですか?
はい、そうです!蚕から糸にして、生地を作る川上の職人たちがいて、卸問屋に渡り、染色職人が登場して、そこから着物に仕立てて売る川下呉服屋さんという風に流れて1つのものを作るんです。この川上川下が分断されているんです。
どういうことですか?
長浜は、生地を作るプロフェッショナルなんです。でも染色とか人に売ることはもともと専門ではないんです。
なるほど…
伝統工芸品って、使う人がいて初めて成り立つと思うんです。
そうですね。作っただけだと作品で終わってしまいます。
そうなんですよ。市場のあり方が変わったのと、お客さんの生活様式が変わったことが大きくて、昔のままのスタイルが合わなくなっているんです。
確かに昔は和装が主流だったけど、今は洋装が主流になってますよね。
そうは言っても「昔ながらの文化のまま受け継いできた家業を終わらせたい」と思う作り手も一定数いると思うんです。そういう方が無理してでも変わるべきではない、と僕は思います。
そうですね。昔ながらのお仕事を守ることも大切だと思います。
今回は垣根を越えて、未来につながるヒントをかきあつめたいって思っている職人たちが繋がるためのイベントだったんですか?
そうですね。職人や行政、デザイナーや大学生などいろんな立場の方が繋がれるきっかけになればいいなと思って企画しました。
こだわり抜いたグループ編成
きっかけを作るためにこだわったポイントはありますか?
テーブルの組み合わせにすごくこだわったんです。グループディスカッションが2回あったので、前半と後半で席替えをしました。
グループディスカッションは大盛り上がりでしたよね!時間が終わっても話が止まらない感じでした。
なるべく多くの人と話すことと「この人とこの人が話したら、きっと盛り上がるだろうな」とイメージして、全部のテーブルを組みました。
テーブル配置のこだわり、もっと聞きたいです。
まずは人数ですね。グループワークをするなら何人くらいがちょうどいいと思いますか?
私は3、4人くらいですかね。
やっぱり4人くらいがちょうどいいんですよ。8人とか10人とかになってくると喋る人、喋らない人が出ちゃったり。僕は喋りすぎちゃうタイプで。
私は逆に遠慮しちゃって喋れなくなってしまいます。
それは嫌だったので、人数を増やしたくありませんでした。でも3人だと出会いが少ない。ということで、5人のテーブルにしたんです。
そういうことだったんですね!グループメンバーの5人もこだわって選んだんですか?
自治体職員とデザイナー、職人というように、それぞれ立場が違う人を混ぜたんです。
分野の越境ですね。参加者のことを調べてグループを作られたんですか?
はい。あと、グループディスカッションの前半と後半でテーマを分けてグループ替えもしたんですが、「前のグループで一緒だった」って被ってる人は一人もいない状況にしました。
1部と2部で被らないように分野を越境したチームを作る…。大変だったんじゃないですか?
これがもう、超絶大変で…。夜な夜な、どんなグループにしようか考えていました。
休憩時間なのに、休憩せずにみなさん話されていましたよね。タカさんの作戦は大成功ですね!
まずは行動、当事者の想いが産地を進化させる
産地越境のイベントを通して、何か変化はありましたか?
イベントがきっかけでアクションを起こし始めた人がいるんです。
どんなアクションがあったんですか?
連絡を取り始めたり何か新しいアクションを起こし始めているようです。知らないところで悔しいですね笑
それは嬉しいですね!
でも、まだ動き出していない方もいるんです。
そうですよね。すぐ動き出す方もいれば、そうでない方もいらっしゃいますよね。
そこがデザイナーの課題であり、産地の課題なんだと思います。
デザイナーとしてどう解決するのか、とても気になります!
一歩一歩「産地越境」のようなきっかけ作りを続けることが大事だと思います。そして、今回は行政から声をかけていただき、開催できましたが、当事者同士が声をかけて開催に至ったらいいなと思っています。
今回のような行政からの動き出しと当事者からの動き出しの違いはなんですか?
行政はそもそも支援者なんです。だから、本来は当事者の困りごとをもとに、当事者からデザイナーに声をかける必要があると思うんです。
当事者からアクションを起こすことが大切なのかぁ。自分の困りごとは発信しないと伝わらないですもんね。
タカさん以外にも企画に関わった方々へお話をお聞きしたいのですが、どなたにお聞きするといいですか…?
一緒に企画をした浜縮緬工業協同組合の理事長の吉田さんはいかがですか?産地側の視点の話が聞けると思います。その後に市役所へも話を聞くと、もっと深く知れるかもしれません。
はい!行ってきます。
市場のあり方が変わる中で、伝統を守り未来に残そうとする職人の皆さん。そんな職人を、デザインの力でサポートするタカさんの熱意に感動しました。
私の挑戦している教育も、社会の変化とともに求められる“教育力”が大きく変化する世界です。
これからの社会を作っていくお子さんと一緒にさまざまな分野や場所を越境することで、これまでにない面白い教育価値を作っていくことができるかも!と未来が明るく見えました。
後編では、吉田さん、長浜市の瀬戸口さんと福島さん、参加者の方々へお話を聞いた様子をお届けしています。あわせてお読みください!
<後編はコチラ>
長浜航海記・船員。京都から長浜へ移住し、株式会社crevus designを設立。小学生向けの体験教室やデザインなどのクリエイティブ事業をしている人。ど根性地べた這いつくばって進むタイプ。