VOYAGE RECORD

船員の航海記

洋服業界に携わること50年。数々の道を切り拓いてきたオーダーメイド型の仕事術

こんにちは。おばTです。

普段、服選びってどうされてますか?ボクはあまりこだわりがなく、手頃な価格のモノばかり買って何となくで着こなしています。

そのため「オーダーメイドの服」とは少し距離があるのが正直なところ。作り手の思いに触れる機会もこれまでありませんでした。

そこで、長浜に工房を構え洋服のオーダー制作、販売をされている「布工房DEN」の北山茂樹さんに、お話を聞くことにしました。

一人ひとりに合わせた洋服を作る意味とは

オーダーならではの強みについて

今の時代に合った洋服作り

など、ファッションに無頓着なタイプだからこそ、素人目線で北山さんに聞いてきました。

北山茂樹|布工房DEN

1948年長浜市生まれ。1973年にアパレル工場を設立し、1997年に布工房DENを設立。ストーリー性のあるデザインとシンプルで着心地の良い長く愛される洋服づくりを目指す姿勢は、ブランド設立時から一貫している。お一人おひとりの個性と好みに合わせてお作りできる技術を活かし、一着に込める情熱は変わらない。

<先に分かるデザイン発注のいろは>

オシャレな人と話すのは緊張するな…。どんな話が聞けるんだろう。こんにちは〜。

おお、いらっしゃい。まずコーヒーを淹れるね。

ありがとうございます!(豆から挽く時点でオシャレなんだよなぁ)

今日はよろしく!

よろしくお願いします!

人との縁から広がる仕事

工房にお邪魔する前にWebサイトを拝見したんですが、40年以上、洋服業界でお仕事をされてきたんですか?

今年(取材日:2023年12月26日)で、ちょうど50年になりました。

50年!?半世紀じゃないですか。想像もつかない…。

20歳までは3年ぐらい、鉄関係の仕事をしていました。

その後、長浜市木之本町金居原(かねいはら)に縫製工場ができて、父が工場を管理していたんです。その工場に私も入ることになり、3年ほど裁断の仕事をしていました。

さっき工場の写真を見つけました!

中央に写っているのが工場の写真

独立当初から服を作られていたんですか?

独立当初は、ツナギ(作業服)を縫うことからスタートしました。

ツナギだけにどう繋がっていくか気になるな。

(手応えなし…)

色んな人に話をしていく中で、どんどんご縁が繋がっていったんです。

ある会社さんから、襟をつけるまでの仕事を依頼され、少しずつ仕事をやっていくうちに、メーカーと直接やりとりするようになっていきました。

下請けではなく元請けになっていったんですね。

また、ある会社のプライベートブランドと契約をしてシャツを作ることに。「パターン*をお願いします」と依頼されました。

*パターン(pattern)は、型、図案、模様などの意味を持つ単語。洋裁の世界では、生地に用いられる柄、型紙(かたがみ)という意味で用いられており、衣装の仕上がりを左右するほど重要なもの。パターンは服づくりの設計図としての役割がある。

かなり重要な仕事なんじゃないですか!?

そうですね。ご依頼いただいた会社からは私の作ったパターンを評価していただき、仕事が増えていきましたね。

一人ずつの積み重ねでファンが増えていく

「DEN」のスタートについても教えてください。

量産型では叶えられないことを、一人ひとりのために一着一着作りたいと思い「布工房DEN」を設立しました。

素人としては、売上を上げたりコスパ良くやろうと思うと、量産型の方が良いと思ってしまいました。

あえてオーダーメイド型でやろうと思ったのは、どんな意図があったんですか?

量産して卸すということは、メーカーの追随をしているということ。メーカーと同じことをやっていてはダメだという思いがありました。かと言って、仕入れて売るだけのセレクトショップにしていては後発では負けてしまう。

たしかに。後発ならではの戦略が必要ですもんね。

だからこそ、自分たちで作る仕立て屋に戻ろうと思ったんです。仕立て屋ということは注文生産をやっていくということなんですよね。

メーカーは注文生産をやらないし、セレクトショップは作ることができないですよね。この時点で他との差別化にも繋がっています。

DEN+Nutel exhibition

ちなみに、屋号の由来は何かあるんでしょうか?

あるデザイナーに名前の候補を5つほど出していただき、その中から「DEN」に決めました。DENには「人の集まる場所」や「学校」「巣窟」などのような意味があるんです。色んな意味があって面白いなって。

そんな意味が込められていたのかぁ。自分の名前や屋号に込められた思いって、意外とそのまま反映されますよね。

お客さんは長浜の方が多いんでしょうか?

長浜だけでなく、お客様は全国から購入いただいています。北は北海道、南は九州まで。

距離が離れていても購入するってことは、かなり濃いファンの方々なんですね。

お客様一人ひとりと深い関係を築くことを大事にしています。事業者として生き残るためには、お客さんの要望を聞いて、その人が気に入ってもらえるものをいかに作れるかしかないと思ったんです。

出会う数は少なくても、一人ひとりとの時間を大事に真剣に。一人ずつの積み重ねでファンが増えていくと思うんですよね。

深い関係を築けることこそが強み。ファストファッションとは対極に位置されているのが面白くもあり、北山さんの価値なんですね。

お客様と会話をする中で、悩みを聞いたり理想像を聞いたりして服づくりに落とし込んでいくのが私の仕事です。

テンプレートのような、何か決まった質問はあるんですか?

決まりきった質問はなくて、世間話なども含めてどんな人なのかイメージを膨らませていくんです。

観察眼がスゴそう。性格を知った上で、どう服づくりに反映されるのか気になります。色んなオーダーがありますよね?

多種多様なオーダーがあったからこそ、自分自身の腕が磨かれた感覚はあります。

お客様の要望に応え続けることで、できる範囲が広がっていきましたね。

自分の限界を作らないことへの挑戦

私が作りたいモノを作るというより、お客様に合ったモノを作りたいと考えています。

そのためにも、お客様の話を聞くのが何より重要ですね。

中には、無理難題なリクエストをされたりやったことがないことを相談されたりすることもあるんじゃないですか?

やったことがないことでも、だいたいのことは「できる」と言いますね。

ハッタリが大事だと思うんです。

ハッタリ!?

私にとってハッタリとは、自分の限界を作らないことへの挑戦。

お客様に喜んでもらう最善の方法をとり続けるために、ハッタリも大事にしたいと思っています。

「自分の限界を作らないことへの挑戦」という捉え方、ステキです。意識していないと、どうしても自分のできる範囲でしか挑戦しなくなりますもんね。

壁をぶち破るためのハッタリはどんどんしていきたいな。

工房の様子

私に関わってくださる人が幸せになってくれたら一番良いなって思うんです。だからこそ、体を壊さず今後も作り続けたいと思っています。

50年も一線で活躍されているなんて、スゴすぎてよく分かりません…。

50年もやられていると、時代の流れも変わってきますよね?

今は数が売れる時代ではなくなってきています。

いかに精神的に満足ができるか。お客様の心を満たせる商品を作ることが大事ですね。

どこかの本で「今の時代は“エモい”かどうかが鍵を握る」と読んだことがあります。

とりあえず作って売れば良いって時代ではないんですね。

お客様の要望をいかにデザインに起こすかがキモになります。

オーダーをいただいた際に、どうすれば身体の綺麗なラインが見えるか、エレガントに見えるようにするにはどうすれば良いか、などを考えてカタチにしていきます。

そのため、デザインありきで考えているわけではないんです。

流行りのオシャレな服を買ったけど、自分には似合わなかったという経験もあります…。

オシャレな服を買えばオシャレになるなんて、幻想なんだと知りました。

他に大事にされていることはありますか?

お客様に喜んでもらうためにも好奇心をくすぐるようにはしています。

やっぱり“遊び心”って大事だと思うし、一歩外に飛び出す感覚を服で表現できたらなと思っています。

自分に合った服を着ている時、ルンルンで外に出ているので、服選びが気持ちにも影響しているんだなと実感しました。

今後やっていきたいことについても教えてください。

良いモノを手間も全て含めた適切な価格で販売したいと思っています。安けりゃ良いって話でもないですしね。価値が高いモノは高くても買ってくださいますし。

また、自分一人ではなく、関わる人たち全員がより良い方向を目指して発展していきたいと思っています。

服一着を作るために、たくさんの人が関わっているんですね。

そうですね。私一人の力では何もできません。

色んな人との繋がりの中で今事業をやらせていただいているので、感謝しながら今後もやっていきたいと思います。

「お客様のために仕事をする」究極系こそが、オーダーメイド型の仕事。一人ひとりの体型や性格が違うからこそ、それぞれに合った洋服を身にまとう必要があります。

オシャレな人はオシャレな服を着ているだけではありません。自分の身体や性格に合った服を着ているから、オシャレに見えるしカッコ良く着こなせるんです。

また、取材の中で「人との繋がりが全て」という言葉を何度も話されていました。繋がりを大事にされている分、目の前の人との関係性を大事にされているんでしょう。ボクとの会話の中でも丁寧に言葉を紡いでくださいました。

ご縁を大事にする北山さんが手がける洋服の数々。ぜひじっくりご覧ください。

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