モノの循環には「感情」が存在する!?素敵な循環を生み出すヒントは愛にあった
こんにちは。初めまして!長浜航海記、初登場のつじもとです。
私は2023年の11月に兵庫県西宮市から長浜市に移住し、約3カ月が経ちました。
現在は地域おこし協力隊として「シェアリングエコノミー*の普及」をテーマに、日々奮闘しています!
*シェアリングエコノミーとは「空間、移動、モノ、スキル、お金などを売買・貸し借り・共同所有する等の経済・社会モデル」のこと
なぜデザインについて全く接点もない私が、この長浜航海記に登場しているのか。本題に入る前に少しだけお話しさせてください。
移住してすぐ、壮大なテーマ「シェアリングエコノミーの普及」と向き合い、頭を抱えていた時のこと…。
つじもとさん、長浜市の余呉町、下草野の里山に滞在しながら「循環型社会」を考えるプロジェクトがあるんですが、知っていますか?
初めて聞きました!
武蔵野美術大学と株式会社日立製作所が一緒になり、長浜の昔の暮らしを調査しながら、循環型社会について考えているとか…。
循環型社会と長浜にどんな接点があるんですかね。今、シェアリングエコノミーの普及をテーマに悩んでいて。このプロジェクトに切り込むことで、何かヒントが見つかる気がします!
お!じゃあ、取材に行ってみたらどうでしょう!
是非!取材に行ってみたいです!
こんな経緯で、長浜航海記デビューをすることに。
今回お話を伺ったのは、プロジェクトの中心を担っている、武蔵野美術大学教授・岩嵜博論さんと、株式会社日立製作所 研究開発グループ デザインセンタ・曽我修治さんのお二人。
取材を終えた今、私の中で「モノ」に対する新たな視点が生まれました。
取材から見えてきたのは、人との関わりや繋がりがあることで「モノ」が循環するということ。そして、モノの循環に「感情」が関わっているということ。
岩嵜博論|武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科教授
滋賀県長浜市高月町出身。リベラルアーツと建築・都市デザインを学んだ後、博報堂においてマーケティング、ブランディング、イノベーション、事業開発、投資などに従事。2021年より武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科に着任し、ストラテジックデザイン、ビジネスデザインを専門として研究・教育活動に従事しながら、ビジネスデザイナーとしての実務を行っている。
曽我修治|株式会社日立製作所 研究開発グループ デザインセンタ
日立製作所において、小売業、卸売業、商社、製造業の業務コンサルティングに従事。その後、デザイン知見を活用した新規事業開発に従事し、現在は研究開発グループにおいて、イノベーション、社会課題解決事業創生の研究を推進
目次
ご無沙汰しております!先日のイベント*ぶりですね。今日は初めてのインタビューで緊張していますが、よろしくお願いします!
ご無沙汰しています。こちらこそ、お願いします!
こちらこそ、お願いします!
そもそも、所属が異なるお二人はどのように出会って、共同研究を行うことになったんですか?
元々、会社では自社のテクノロジーを使って、大きな工場で大量生産するのではなく「地域で必要なものを地域で作っていくこと」に可能性を感じていました。
工場で大量生産し、長距離、モノを運ぶこと自体、環境によくないのでは?という視点でも、モノづくりの地産地消は可能性がありますね。
なるほど!
そんな風に事業について考え始めた際「デジタルファブリケーション*」という視点が生まれたんです。その分野で調べたところ、岩嵜先生のお名前をたびたび拝見し「共同研究しませんか?」とお声がけしました。
で、でじたるふぁぶ…?!
*デジタルファブリケーションとは、デジタルデータをもとに創造物を制作する技術のこと。
長浜市余呉町下草野の“おじいちゃん・おばあちゃんの暮らし”が研究対象に
循環型社会を考える時に、なぜ長浜の地域で調査することになったんでしょうか?
岩嵜先生が長浜ご出身で、長浜と繋がりがあったことも大きいですね。
長浜の中山間地域と言われる「余呉町と下草野地域」の昔の暮らしに注目したんです。地域内で循環型社会が成り立っているんじゃないかと思ったんですよね。
そうなんですね。プロジェクト概要も拝見しました。余呉町での暮らしを探るため、古民家に滞在しておじいちゃんやおばあちゃんにも聞き取りをされたんですよね。
そうですね。今回はデザインの観点で言うと「リサーチ」の部分で聞き取りをしました。暮らしの中で循環型社会を成立させる文化や社会、コミュニティのあり方があるんじゃないかと考えたんです。
デザインって、そういう調査方法もあるんですね。勝手なイメージですが、デザインは机の上で考えるだけかと思っていました。
循環型社会を考える時は「資源そのものをどう活用することが良いのか?」について議論されることが多いんです。アルミをリサイクルしよう!とか。
テレビの特集でよく見る気がします。
ですが、その問い自体に疑問を持たなければいけません。作るという役割もありますが「人」の気持ちを追いかけつつ、寄り添うのもデザインなんです。
人の気持ちに寄り添う…?
例えば、経済成長の時代においては「より便利なものを作ろう」と思われがちでした。しかし、これは本当に正しい答えなのか立ち止まって考える必要があります。便利なものを作るための問い自体が合っているのか、疑問を持つことができるのも「デザイン」なんです。
便利なものに溢れていても、常に忙しい現代人ですもんね。便利さを求めることが私たちの何に繋がるのか、立ち止まり考える視点は大切な気がします!
今回のプロジェクトは、昔のことから学びつつ、未来に向かって本質的な問いを見つける取り組み。これから循環型社会を実現するための問いを考えていこうというお話です。
私は「シェア」をテーマに活動している中で、人の気持ちについても考えるようになりました。シェアする気持ちが生まれやすい文化ってなんだろうなと日々考えています。
「キュウリ、足りてるか?」濃い繋がりから生まれるモノの循環
西宮から長浜に移住してきて、感じることがあって。長浜ではすぐに地域の誰かと関わったり繋がったりする気がするんです。昔は今よりももっと人との関わりが濃かったんですかね?
長浜の文化には「結」(ゆい)という、制度のようなものがあったんです。収穫をする時など、みんなの手伝いが必要な時は学校が休みになり、みんなで作業することも(笑)共同生活的な文化ですよね。
学校が休み!?今では考えられないですね。
調査で現物は見つからなかったんですが、カレンダーにも“手伝いの日”と書いていたとか(笑)
人との関わり方について、長浜と他の地域では違う点はありましたか?
ありました。余呉に滞在中のメンバーとオンライン会議でよく打ち合わせをしていたんですよ。そうしたら時折、画面からいなくなることがあって。でも、音だけは聞こえるんです。ドアが開く音がして「キュウリ、足りてるか?」って聞こえてきました(笑)
近所の人との距離感が分かりますね。
近所の人が野菜を持って来てくれたんです。画面越しではありますが、同じ地域の方々との濃い繋がりを感じましたね。
地域ならではの密な関わりや繋がりがあることで、モノが循環するんですね。一方、都市部においては、同じような事象があるんでしょうか?リアルな繋がりは希薄で、個々で完結するようなイメージがあります。
「推しのため」なら!手間を超越する愛からモノが循環する
少し余談にはなりますが…。ゼミの学生で推し活*の研究をしている人がいて。推し活グッズをリアルな場で交換しているらしいんですよ。
*推し活:アイドルやアニメのファン活動として若い世代を中心に広まっている
グッズのうちわとかを?リアルで交換?
対面で会って、交換しているようです。「対面のやりとりが少ない社会」ってよく言われますが、実際に起こっていることと矛盾していますよね。この事例からも一度立ち止まって「疑ってみること」も大事ですよね。
アイドル好きの友達がSNSを通じて会ったことない人と協力して、席を取るという話を聞いたことがあります。同じコミュニティで出会った人たちと仲良くなって、旅行に行ったという話も。「推し」で繋がるコミュニティが確かに存在しているんですね!
「推す」という気持ちは、循環型社会の回復のキモになる気がします。
推しって「愛情」や「愛着」の一種だと思うんです。これは「不便さ」を超越するんじゃないかと。現代社会は「早くて便利なもの」がどんどん生まれていますよね。一方「愛情」と「愛着」があると、待つ余裕が生まれたり我慢できたりするようになる。
なるほど。例えば、チケットを取るのってすごく「手間」がかかると思うんですよ。手間を超えていけるのは「愛」があるからですね。
繋がりから生まれる感情が「モノ」を素敵に循環させる
地域で「愛着」について考えた時、長浜の「小原かご*」が良い例かなと思います。材料の確保が大変で、1個作るために手間も時間もかなりかかる商品です。
*小原かごとは、かつて滋賀・福井県境、山の中で自給自足の暮らしから作り出された籠。カエデなどの広葉樹を材とした美しさと丈夫さが評判。現在、最後の作り手から技術の継承にも取り組んでいる。
商品について詳しく知ることができれば、完成まで待とう!という気持ちになりますよね。「あの人が作ったんだから大切にしたい」という気持ちも出てくると思います。
作り手との距離が近くなったり作る過程が見えたりすることで、愛着という「感情」が生まれ、モノを大切に使いたくなるなと感じました。そんな個人の気持ちが、大量生産大量消費ではない、モノの素敵な循環へ繋がるのかもしれないですね。
「循環型社会」というテーマからモノの循環は、昔も現代も「人と繋がる、関わる」こと、感情から生まれているのでは?そんな本質的な問いが見えてきました。
そして私自身、改めて身の回りのモノを見渡して、語りかけたくなりました。
「誰に、どうやって作られてきたんだろう・・・?」と。
皆さんはどうでしょうか。
私の活動テーマである「シェアリングエコノミーの普及」。今回の議論に当てはめて考えると…。暮らしの背景も含めた様々な人の気持ちに寄り添い、本質的な問いを見つけていくことが、まず最初のステップ。そこからが、本当の活動スタートとなりそうです!
問い合わせ先:Hironori Iwasaki 岩嵜博論 (hriwsk.com)
2023年に兵庫県から長浜へ移住。地域おこし協力隊として、シェアリングエコノミーの普及をテーマに日々、奮闘中。旅・自然が好き。