普通の相談に、普通じゃない答えを。デザインの枠を超えるデザイナーの仕事とは?

こんにちは、ゆかりです!
長浜航海記の船員になって、8ヶ月ほど経ちました。

ところで、いつもみんなでミーティングをしていると「それは◯◯さんがやっているプロジェクトだね」「まだ計画段階だけど、今こんな話が持ち上がってて…」と、あらゆることをスラスラ解説してくれるのが、船長のタカさん。
なんでこんなにいろいろ知ってるんだろう。特に、デザイン関係の企画には異常に詳しい…
というか、実はよく知らないんだけどタカさんって普段何してる人?
そんな疑問がそろそろピークを迎えたので、今回はタカさん本人を直撃!
長浜航海記スタートから2年目にして、謎に包まれた船長の正体に迫ろうと思います!

石井 挙之(いしいたかゆき)|グラフィックデザイン、ナラティブデザイン
東京の美術大学を卒業後、広告会社へ就職。その後、千葉、長野、イギリス、福島などを経由して長浜へ。地域おこし協力隊任期満了後、(株)仕立屋と職人を設立。三度の飯より釣りが好き。
目次
会社員としてのデザイナーの仕事に疑問を感じ、独立
ということで、タカさんってぶっちゃけ何してる人なんですか?
えっ、僕? 僕はね…もともとデザイナーをやっていて、こういうパッケージとかを作っています。

これ、普通に売っている商品ですよね…?すごい!パッケージのデザイナーってことですか?
パッケージだけじゃなく、会社のロゴやポスター、広告なども作ってきました。
大学を卒業して東京の広告会社に入って、そこから滋賀に来るまでずっとグラフィックデザイナーの仕事をしていたんです。
なるほど、だからデザインに詳しいんですね!
もう朝から晩までパソコンの画面に張り付いて、誕生日の前後を含めて3日間徹夜したこともあったなぁ…
ハードな仕事だったんですね…
複数のことを同時に進めていく能力と、何もないところからアイデアをひねり出して形にする力はこの時身に付いたんだと思います。

でもね、当時僕がデザイナーとしてやっていた仕事って、ひとつひとつのプロジェクトの全体像を想像するとすごく局所的だったんです。
例えばパッケージだと、仕事をいただいた時点で要件が決まっていることが多くて。
ちゃんと売り出すには、紙の箱か木の箱か、そもそもパッケージにいくらかけるのが妥当なのか…他にもいろいろ考えることがありそうですが。
そう。本当は、パッケージのデザインにたどり着くまでに長い道のりがあるはずなんです。
多くの人が関わるプロジェクトゆえに、見えない部分もあった、と。
大きな予算で、誰もが知っている名前のクライアントで、たくさんの人が関わっているプロジェクトの一部になれるだけですごく刺激的でした。でもそのダイナミックさゆえに、自分が作ったものは誰にどんな影響を与えているのか、あまり実感を持てなかったんです。
がんばって作ったら、その後の影響も知りたいですよね。
だから、「もっと人に近い距離でデザインをしてみたい」と思うようになって。
会社をやめて、そこからいろいろな地域を放浪することに…デザイン放浪の旅に出ました。
それで巡り巡って長浜にたどり着いたんですね!
ぼんやりした相談、どうやって形にする?

とはいえ相手が地方の中小企業などの場合って、お客さん側から「こんなデザインにしたい。
ターゲットはこんな人!予算は◯◯円!」ってパッと出てくるものなんですか?
あまり出てきません(笑)特に中小企業の場合はマーケティング専門の部署があるわけじゃないので、発注する側も具体的に何をどうしたいのか、はっきりしてないことが多いんです。
そうですよね…。「ふるさと納税に出品するからとにかく見栄えを良くしたい」とかもありそう。
そう思うのはとても大事なことですよね。ターゲットは誰なのか、どんな素材が適しているのか、どのくらい予算がかけられるのか、そういう話から一緒に考えないといけない。自分で「要件」を見つけ出す力を求められました…。デザイナーって“聞く力”がすごく大事なんですよ。
デザイナーというより、デザイナー兼コンサルタントみたいな役割ですね。
そうかもしれません。例えばこの「長浜航海記」はまさにそう。
まだ影も形もない状態で、市の担当者との「長浜の魅力を発信するウェブプラットフォームってどうしたら作れるのか…」という相談から始まりました。
こんなところにいいサンプルが!っていうか、結構ざっくりしたスタートだったんですね。

当時、長浜にはすでにいくつかのWebメディアがありました。
じゃあ他でありそうな、普通のことをやったら埋もれちゃう。
そう。だから「長浜の魅力を外に発信するんじゃなく、長浜の人が見てくれるメディアにしましょう」と提案しました。

そこから「社長や自営業の人が多い長浜で、デザインを取り入れるハードルがもっと下がればいろんな課題が解決できるのでは?」と考えて、提案して、スタートしたのが「長浜航海記」です。
「長浜の魅力を発信したい」という依頼から具体的な企画を作って形にする。まさに、自分で要件を見つけ出してデザインを作る仕事ですね。
そうですね。各地をまわっていろんなプロジェクトに関わる仕事を続けてきたら、企画段階から一緒に考えて、形にして、場合によっては運営にも携わるっていうのがいつの間にか自分のスタイルになっていました。
発注した側が気づいていないことまで掘り起こして、リサーチした上で提案してもらえるってめちゃくちゃ頼もしいと思います。
でも、デザインって基本的に「受け」の仕事なんです。作って納品しても、その後どう使うかはお客さん次第。
うーん、確かに。デザインが良くても、ちゃんと目立つ場所に置くとか、SNSで広めるとかしないとターゲットに届かなそう。
そう。どうしたら良いものを伝え切れるのか。
自分たちで最後まで責任を持ちたくて、自社ブランドを作りました。
ブランドを作って気づいた、ストーリーより大事なこと
それが「シャナリシャツ」ですね。

はい。自分達で市場調査をして、どんな商品にするか考えて、製造オペレーションを組んで、値付けして、売り場に立って、お客さんに販売して。
これまでやっていた「デザインする仕事」の前後には、こんなにたくさんやることがあったんです。
自分達で全部やるのはすごく大変そう。ところで、シャナリシャツはタンスに眠っている着物をシャツに生まれ変わらせるブランドですよね。なぜ着物に注目したんですか?
着物って、今の持ち主だけじゃなく、その人のお母さんやおばあちゃんの思いまで詰まってることが多いんですよね。
着ないとわかっていても、捨てられない人は多そう…
だから、その思いをデザインの力で昇華する仕組みを考えました。持ち主が悔いなく手放せて、買う人は着物が歩んできた時間に思いを馳せながら身にまとう。商品を作ることで血の通ったコミュニケーションが生まれるブランドにしたかったんです。

自分でブランドを立ち上げて、わかったことはありますか?
デザイナーとしてお客さんのブランドに関わっていた時は、まず第一に商品の背景にあるストーリーを伝えなきゃと思っていました。
大事ですよね、ストーリー。
でもそれって、「ストーリーから知ってほしい」っていう売る側のエゴがかなり入っていることに気づいたんです。実際は、まず商品自体が魅力的じゃないとストーリーなんて聞いてもらえない。

ひと目見て、「かっこいい!」「着てみたい!」と思ったからこそストーリーに興味を持ってもらえる。
確かに、人は直感で動く生きもの…それが現実であり、思いが強いほど見落としがちな視点かもしれません。
困っているけど何から頼めばいいかわからない人へ
じゃあ今は、自分達のブランドを運営しつつ、クライアントからのお仕事も受けている感じですか?
そうです。「仕立屋と職人」の問い合わせフォームからメッセージを送ってもらえば、デザインやコンセプトづくりからご相談に乗りますよ。
ちなみに、「仕立屋と職人」にはどんな意味が?
もともと「職人」は日本全国にいるさまざまな作り手の方々で、僕達が「仕立屋」という考え方。
職人のみなさんに対して僕達は、コンセプト、仕組み、デザインなどいろんなものを仕立てて、課題を解決する役割を担うぞ!という気概でやっていました。

なるほど!てっきり「仕立屋」と「職人」のユニットかと思ってました。
今では、本当に自分たちが(シャツの)仕立屋になりました(笑)
ある意味わかりやすい!お仕事はどの段階からお願いできるんですか?
困っているけど何をどうしたらいいかわからない…」というお客さんも多いので、現状と課題を整理して、「こちらが何を手伝えるか」を明らかにするところから一緒に考えます。
相談するハードルが一気に下がったかも。長浜航海記のように、完成した後の運営まで関わるパターンも多いんですか?
そうですね。こだわりというか、愛着というか。もちろん相手の希望によりますけど、「作ったものを納品して、はいサヨナラ」にはしたくないんですよね。僕は諦めが悪いんです(笑)

船長の正体を探りに行ったら、デザイナーのあり方について深く考えることになった今回の取材。
「デザインは見た目だけじゃない」というのはこれまでの取材で学んできたつもりでしたが、それと同時に「直感で人の心をつかむ第一印象も重要」というのも、最近はわかってきた気がします。
「最初に何を見せて、次にどう導いて、どこに着地させるか」そういう流れを設計すること自体もデザインなのかな、と視野が広がり始めた今日この頃です。
それにしても、まだ手探りの状態から相談に乗ってくれるクリエイターが、長浜には本当に多い!
課題の原因から掘り起こして、しつこく一緒に走ってくれるデザイナーをお探しの方。うちの船長、おすすめですよ!
仕立屋と職人
お問い合わせは、仕立屋と職人のホームページの「お問い合わせフォーム」から
仕立屋バザール (「シャナリシャツ」もこちらから)

長浜航海記・船員。彦根生まれ、彦根育ち。会社員、ショップ店員を経て流れ流れてフリーライターに。オタク気質で気になる話題になると仕事を忘れて暴走しがち。カレーと猫とホラー映画があればしあわせ。