漆塗り職人からの反対を乗り越え、人気アウトドアブランド「GNU」ができるまで
こんにちは。おばTです。
コロナ禍をきっかけにキャンプにハマる人が増えた印象があるんですが、みなさんの周りの方々はいかがでしょうか?
ボクはと言うと、一度体験して以来キャンプには行けておらず、キャンパーのいきいきとした姿を見て「眩しい…カッコいい…!」と羨望の眼差しを向けております。
キャンパーに話を聞いてみると、キャンプ道具(キャンプギア)はかなり奥が深いとのこと。さらに話を聞いていくと、長浜には有名なアウトドアブランドがあるらしい。
Instagramで企画を立ち上げると数百人以上の方から応募が殺到。キャンプイベントには50人以上が参加。百貨店での販売も行い大盛況。新聞に取り上げられることもしばしば。
その名も「GNU(ヌー)」。
名前やロゴを見ただけでは、どんなブランドなのかまだ想像はつきません。「GNU」と呼ばれるブランドは一体誰が手がけているのか?ブランドが誕生したきっかけは?
情報収集をしているうちに、長浜市内のあるお店にたどりつきました。
1807年に創業された仏壇職人のお店「カネイ中川仏壇」さん。仏壇や仏具、掛軸などの製造や販売、修復をされています。
仏壇屋さんとアウトドア。正直、あまりピンと来ていません。
そこで、アウトドアブランド「GNU」を手がけるカネイ中川仏壇さんの5代目漆塗り職人、中川喜裕さんにブランドが生まれた経緯を聞いてきました。
中川喜裕(よしひろ)|カネイ中川仏壇・GNU
江戸時代から続く仏壇店の家業を継ぐ、5代目漆塗り職人。時代の流れによって消えゆく「伝統」を、新たな角度で継承する。時代に合った挑戦を続け、地球上最強の塗料である「漆」を通じて、たくさんの人に感動を届ける活動をしている。
漆文化を伝えるための企画から生まれたブランド
仏壇屋さんとアウトドアブランド。正直、まだ関係性が見えて来ていないんですが、どういう経緯で「GNU」が生まれたんでしょうか?
最初のきっかけは、キャンパーさんの愛用オピネル*に、漆塗りを無償で施すプロジェクト「無料漆プロジェクト」ですね。
※オピネルとは、アウトドアで使われる折りたたみ式ナイフのこと。
プロジェクトは、お仏壇に対する若い人への関心の薄さを感じたことから始まりました。
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仏壇屋としてお仏壇を洗濯し、納品に行くんですが、若い人たちの反応があまりなくて。
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綺麗になったと喜んでくださるものの、感動するほど関心があるわけじゃないのが現実でした。
ボクの家にも仏壇はあるんですが、関心は薄いというのが正直なところです…。
漆に触れたことがない人に、漆文化を知ってもらうにはどうすればいいのか。
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手に取ってもらえれば漆の魅力は伝わると思っていたので、とにかく伝えることを優先して、無料で漆を塗る企画をすることにしました。
「絶対に良さは伝わる」という自信がないと、なかなかできないことだ…。
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企画への応募は何件来たんでしょうか?
Instagramで募集をしたところ、既に僕のことを知っていただいている方を中心に100件近くの応募が来ました。
100件近くも!?すごい反響ですね。
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100件、全て漆を塗られたんですか?
そうですね。応募していただいた全ての方の漆を塗らせていただきました。
凄すぎます…!
このプロジェクトをきっかけに、応援してくださる方が増えたり雑誌から取材を受けたりするようになりました。
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取材を受けるにあたって「屋号を作ろう」という話になり、誕生したのが「GNU」です。
職人からの反対
同じ業界の職人さんからの反響はいかがでしたか?
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職人さんはイベントや企画とは正反対の、職人肌の方が多いイメージがあります。
プロジェクトを始めた当初、業界内の職人さんたちからは反対のお言葉をいただきました。
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キャンプ用品に漆を塗るなんてあり得ない、さらに無料なんてもっての外だと。
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外で使うキャンプ道具に漆を塗るイメージは全くなかったので、仕方がないとは思います。
伝統を守り続けてきた職人さんと新しい企画を仕掛ける若い後継者。
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年齢が離れれば離れるほど、理解されにくい部分は出てきそうですね。
「ちゃんと伝統を引き継げ」「そんなことしてんと、ちゃんと仕事せい」みたいな。結構言われていたので、しんどかったですね。
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それでも1年間は無料で漆を塗り続けました。
ボクの実家も曽祖父から続く会社を経営していて、会社を継ぐ可能性もあるんですが、中川さんと同じように同業者から反対されたら、ポッキリ心が折れる気がします…。
周りからは色んな声をいただいていたものの、家族からは何も言われず応援し続けてくれたのが、精神的に救われました。
最後は家族の存在が大きいんだなぁ。
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無料にもかかわらず1年間続けられたのはなぜでしょうか?
自分の好きなことだから続けられたんだと思います。漆を塗ることもアウトドアも好き。
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さらに、人と人を繋いだり喜んだりしてもらえることが、昔から好きなんですよね。
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楽しいことをみんなで分かち合えている感覚があったので、心が折れることなく続けられました。
「分かち合う精神」が浸透しているファンの存在
「GNU」のInstagramを見ると、かなり熱量の高い方が集まっているイメージがあります。
GNUや僕の思いに共感をしてくださる人たちが多く、イベントで集まったときにはいつも盛り上がりますね。
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イベント自体を盛り上げてくださいますし、僕の新しい挑戦も応援しくださるのは本当にありがたいです。
ボクも普段発信をする中で、“フォロワーさんの熱量を高める難しさ”を日々痛感していて、中川さんの周りに集まる人たちの熱量には驚きました。
GNUは「漆で繋がる人を増やし、感動を分かち合う」がテーマ。漆がただ広がるだけでは意味がありません。
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感動が生まれ、人の心が動くにはどうすればいいかをいつも考えています。
まさにボクも心を動かされた一人です。
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中川さんの周りの人たちは、思いに溢れた人たちが多いですよね。損得だけで動いていないというか。
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本気で中川さんの活動に共感している、熱い思いを持った人が多いイメージがあります。
本当にありがたいことに、周りにgiveする人たちばかりが集まっているので、損得感情で動く人がいないんですよね。
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他人に与える人ばかりだと分かち合いが生まれて、思いやりや尊敬、尊重に溢れた空間になる。そして、最後には感動も生まれます。
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だから、イベントを開催したときには「またイベントに行きたい」と思ってもらえるんです。
ファンの中には昔からGNUのことを知っている人もいれば、最近知った方もいらっしゃると思います。
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どうしても熱量の差が生まれてしまうと思うんですが、新しく知った方へのフォローはどうされていますか?
イベントを企画する際には特に気をつけている部分ですね。
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初めて参加する人も居心地良く感じてもらえるのは、空間に余白があるからだと思います。
空間に余白。どういうことでしょうか?
例えば、春と秋に開催している「GNU CAMP」は、毎回僕と妻の2人で運営をしているんですが、参加者が50人のキャンプイベントを2人で回すのは結構無謀です(笑)。ワークショップとかもあるので。
無謀すぎませんか!?
僕たちの動きを見かねた参加者さんたちが、運営をお手伝いしてくれるんです。設営の手伝いや景品の準備、ゲームの司会は子どもたちがやってくれます。
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慣れない僕たち夫婦の運営に、たまたまいい意味で“余白”ができて、みんながサポートしてくれるようになりました。本当にありがたいですよね。
結果的にですが、GNUのイベントはみんなでイベントや空間を作る、giveの空間が生まれていました。
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今後も無理してスタッフを増やすこともせず、参加者の皆さんの力をお借りしながら、この形で続けていけばいいのかなと思っています。
たしかに、初めて参加する場合でも「自分が空間を作っている」という感覚があれば、当事者意識を持って参加できますね。
GNUのキーワードである「分かち合う」をみんなが意識しているから、尊敬や尊重が自然に生まれるんです。
一人ずつと感動を分かち合うプロジェクト
最初は中川さんの取り組みに反対されていた方々の反応は変わりましたか?
特に何も言われなくなりましたね。
最初は疑問に思っていた人も、長く続けていると認めてくださるんですね。
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長い伝統がある業界で意見をひっくり返すのはなかなかできないことだと思います。
GNUはブランドでもあり、コミュニティでもあり、仏壇屋の5代目のプロジェクトでもあるんです。
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一人ずつと感動を分かち合えた結果、僕の活動が広がっていけばいいなと思っています。
ボクはもう中川さんの活動を広げたくてウズウズしているので、分かち合うことに成功していると思います(笑)
今後やりたいことはありますか?
海外の人に漆器を手に取ってもらったり保育園で漆器を導入してもらったりしたいです。まずは小さい子どもに知ってもらって触れてほしい。文化を作るのは子どもなので。
子どもが文化を作る。
小さい子どもが使いやすいものは、福祉の分野でも活躍するんじゃないかと考えています。リハビリのときに漆器を使ってもらえたら嬉しい。
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やりたいことはたくさんあって、挙げ出すとキリがないんですが、今置かれている現状をより濃いものにしていきたいと思っています。
伝統のある業界に風穴を開け、若い感性を取り入れた新しい風を吹かせる。内輪だけで盛り上がることなく、新しいアウトドアファンも巻き込めるのは、中川さんの“分かち合う精神”が浸透しているから。
企画に応募が殺到したり百貨店での販売も成功させたりできるブランドの裏側には、業界への熱い思いと思いに突き動かされた応援者の姿がありました。
アウトドアブランド「GNU」は、漆で繋がる人を増やし、感動を分かち合うために今後も挑戦を続けられます。みんなで動向を追っていきましょう。
これを機に、キャンプとは無縁だったボクもキャンプについて調べてみたいと思います。
長浜航海記・航海士。永遠の野球小僧。「長浜にはしばらく帰ってこーへん!」と言いつつ、23歳のときに爆速Uターン。以来、地元のことがちょっぴり好きになりました。野球と筋トレ、オードリーが好き