浜ちりめん300年の歴史に風穴を開ける新ブランド「2M,38S」に込められた思い
こんにちは。おばTです。
ボクが学生時代よく野球の練習をしていたグランドの近くに、ある工場があります。
1927年に創業、滋賀県長浜市で300年近くの歴史を持つ最高級の絹白生地「浜ちりめん」を製造する「有限会社吉正織物工場」。
地元の人たちにとって、有名な会社さんです。
そんな吉正織物工場さんが、新たにブランドを立ち上げたという情報を入手。
噂で聞くところによると、浜ちりめんの業界では画期的なブランドとのこと。
「どんなブランドなんだろう?」
ホームページやオンラインショップを見るほど、サイトには載っていないディープな情報を知りたいと思うように。
そこで、有限会社吉正織物工場の代表取締役、吉田和生さんに、ブランドの誕生秘話や思いについて聞いてきました。
吉田和生|有限会社吉正織物工場 代表取締役
祖父が創業した会社を父から引き継ぎ、3代目の社長に就任。40年間浜ちりめんの製造の現場と販売の第一線に従事。進化を続けながら伝統に培われた高い技術力を守っている。新ブランド「2M,38S」を開発し、浜ちりめんを進化させることが自身の役目。
3代目である吉田さんは4代目に会社を引き継ぐのか!?
家業を継ぐのかどうか*に揺れているおばTが「事業承継問題」についても聞いてきました。
*おばT家の家業は3代続く地元の設備屋。現在、おばT父が代表を務めている。将来事業を継ぐかどうかは結構リアルに悩んでいる問題。
ユーティリティ・ウェアブランド「2M,38S」
「2M,38S」文字だけを見た段階では何て読むのか分かりませんでした。
「フタツキサンジュウハッテ」と読みます。
どんな意味が込められているんでしょうか?
浜ちりめんの制作工程にかかる時間二月(ふたつき)と、手技の数を表す三十八工程をそのままブランド名にしました。
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時代が変わっても、変わらず良いものを作り続けようとする、絹織物「浜ちりめん」の意志を表しています。
そういう意味が込められているんですね。ブランドの特徴についても教えてください。
一番の特徴は「シルクなのに洗える」という機能性。300年近く続いてきた浜ちりめんシルクのもつ美しさや強度、着心地の良さにウォッシャブル機能が加わったことにより、時代に合うブランドができました。
3つの要素が重なってできたブランド
伝統のある業界で新ブランドを立ち上げるのは、かなりハードルが高いのかなと思うんですが、どんな経緯でこのブランドが生まれたんですか?
長浜商工会議所が実施するプロジェクト「長濱シルクプロジェクト」がきっかけで生まれました。
「長濱シルクプロジェクト」は、滋賀県長浜市を舞台に、長浜を代表する伝統産業「浜ちりめん」と「輪奈ビロード」を題材として、絹織物の機屋さん、機屋さんとタッグを組むパートナー専門家、事務局を担う長浜商工会議所などが協働して実施するプロジェクトです。
「長濱シルクプロジェクト note」より引用
浜ちりめんの生産量のピークは昭和47年。年間で185万反が生産され、185万着の着物を作っていました。しかし、時代が経過するとともに生産量は激減。
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「このままでは業界自体の存続も危ないし、なんとかせないかん!」ということで立ち上がったのが、長濱シルクプロジェクトです。
昔の映像や写真を見ると、着物を着ている人も多いもんなぁ。プロジェクト開始後すぐに「2M,38S」ができたんですか?
試作品を作りながら、今の形に落ち着くまでに5年ぐらいかかりましたね。
5年も!?
ブランドとしてどういう方向性の服を作るのか、浜ちりめんという生地をアピールするためにはどうすればいいのか、などを試行錯誤するうちに5年が経過しました。
実は「2M,38S」は3つの要素が重ならないと作れなかったんです。
3つの要素…?
1つ目は、ウォッシャブル技術。日常的に使ってもらうためには洗濯できる製品にしなければいけません。
日常的に着るには洗濯できるかどうかが重要ですよね。
2つ目は、広幅生地の製造が行えること。弊社は、広幅生地の製造が行える機器の導入を既に行っており、洋装や雑貨などにご使用いただける生地の製造にも対応していました。
広幅生地の製造は珍しいことなんですか?
通常、私たちのような和装に携わる会社は38cmの小幅生地で製造しています。洋装の場合、広幅生地でないと製造できないんです。
和装と洋装で生地の違いがあるんですね。
3つ目は、デザイナーさんの力を借りられたこと。長濱シルクプロジェクトのメンバーである、福川登紀子さんに入っていただいたことで、ブランドを作ることができました。
300年の歴史に新たな風が吹く
新ブランドができたことで、反響や変化はありますか?
お客さんに直接買ってもらえる最終製品を作れたのは大きいですね。これまで生地しかやっていなかったので、仕事相手は全て企業さん(BtoB)だったんですよ。
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しかし「28M,38S」を作ったことにより、お客さん相手(BtoC)の商売になったので、だいぶ意識が変わりました。
対象が変わると見え方も変わりそうですね。
先日は百貨店で2週間、店頭に立っていましたから。スーツを着て、靴をピカピカに磨いて直接売っていましたよ。
吉田さん自ら販売されていたんですね。
一般消費者の方と直接お話すると勉強になりますね。企業さん相手の場合、業界に精通した企業さんばかりで、詳しく説明をしなくても意図を汲み取っていただけます。
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一方、一般消費者の方は浜ちりめんのことや業界について知らない人ばかり。いかに分かりやすく話したりお客さんニーズを聞いたりするかが、これまでとは違うアプローチで新鮮でした。
何人もの方が関わり300年近く伝統が続いてきた業界で、新しい取り組みをするのに不安はなかったんですか?
不安を感じるより業界に風穴を開けていきたいなと思っています。業界自体を変えないといけない。着物だけでは産業自体が長続きしないので。
300年の歴史に新たな風が吹くタイミング。
伝統産業を守るという意識はもちろん大事です。それだけでなく、事業として成り立たせ、社会の役に立つものを作り続けないと存続できないと思うんです。
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だから、皆さんのお役に立てるものを作らないといけないし、お役に立てる産業でないといけないと思っています。
時代の移り変わりが激しいですもんね…。ボク自身もこの時代で何ができるのかいつも考えさせられています。
昔はたくさんの人が着物を着ていたため、浜ちりめんは役に立ってきました。しかし、現在はどうでしょうか。
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時代が変わったことを踏まえ、浜ちりめんという生地が社会のお役に立てるよう発展しなければいけません。新ブランドはそのための第一歩だと考えています。
業界を変えるには他の会社さんとの連携も必須になると思います。他社さんとの連携はどうされているんですか?
「2M,38S」で得たノウハウや知見は同じ業界の方々に共有しています。自分たちだけで盛り上がるだけでなく、産業全体を伸ばしていく必要があるので。
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シルクが日常的に使いやすくなり、需要が広がると嬉しいです。
浜ちりめんを通して日々の生活を豊かにする
吉田さんは3代目でいらっしゃいますよね。息子さんには4代目を引き継いでもらいたいという思いはあるんでしょうか?
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というのも、ボク自身が家業を継いで4代目になる可能性もあるので、吉正織物工場さんの場合はどうなるのかと気になりました。
継いでもらいたい気持ちはありますが、事業を続けるのが難しい業界なので、正直強くは言えません。
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ただ、アパレルの企画や会議には関わってくれているので、心強いなと感じています。
業界自体の発展も継承問題に関わってくるのか…。後世に残していくためにも業界自体の盛り上げが必要になるんですね。
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今後のビジョンについても教えてください。
浜ちりめんの製品を販売する会社・ブランドとして、多くの人に知ってもらいたいなと思っています。そして、新たな製品をどんどん出して、みなさんの生活に役立てたら嬉しいです。
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「日々の生活を豊かにする」という感じですね。
どんな製品が生まれるか楽しみです。
今はシルク100%でやっていますが、今後は必ずしも100%にこだわらなくてもいいと思っています。
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どうしても値段が高くなってしまうと、気軽に手に取らなくなってしまいますよね。綿や合成繊維を半分入れるなど、価格や機能も含めて気軽に手に取れる商品を作りたいと考えています。
発展のためなら今までのやり方を変える覚悟があると。吉田さんの覚悟が伝わってきました。
全部私一人ではできないことなので、他のみなさんのお力をお借りして、業界全体で発展していきたいですね。
「自分が生きている今だけ儲かればいい」と、短期的に考えるのではなく、今後の業界や後世に引き継ぐために新たな挑戦を続ける吉田さん。
不安や恐怖、葛藤など、たくさんの負の感情とも向き合い続けて乗り越えてこられたからこそ、力強い言葉となって人に伝わるんだと思います。
「みんなが着ていないような服で、カッコ良くて周りに自慢できる服」と購入したお客さんが胸を張って言えるブランドは、今後どんな発展をしていくのか。
ボクの地元で、業界を変える取り組みをされている企業さんがいらっしゃることに誇りを持ちながら、今後の動向を追い続けるようにします。
商品をじっくり見たい方はぜひオンラインショップを覗いてみてください。洗練されたブランドに惹かれること間違いナシ。
長浜航海記・航海士。永遠の野球小僧。「長浜にはしばらく帰ってこーへん!」と言いつつ、23歳のときに爆速Uターン。以来、地元のことがちょっぴり好きになりました。野球と筋トレ、オードリーが好き