困りごとがアイデアのタネに。福祉の潜在的な資源を見出す「福祉とデザイン研究会」
こんにちは。おばTです。
2022年に長浜にUターンし、半年が経った頃「福祉とデザイン研究会」という言葉をよく聞くようになりました。概要を知っている人に話を聞くと、外部講師を呼んでセミナーをしたり実践的なプロジェクトをしたりしているとのこと。
一体、どんな団体なんだ…。
詳細が気になってインターネットで検索をしたところ、公式サイトを発見!
サイトでどんなことをやっているのかが薄っすら見えたことで、どういう経緯で立ち上がったのか、プロジェクトを行う目的は何なのかなど、裏側の部分が知りたくなってきました。
そこで、福祉とデザイン研究会を主催している「長浜市社会福祉協議会(以下:社協)」の山岡伸次さんと、企画コーディネートをしている「合同会社kei-fu」の荒井恵梨子さんにプロジェクトの裏側を聞いてきました。
山岡伸次|長浜市社会福祉協議会
長浜市出身。長浜とまちづくりが好きで長浜市社会福祉協議会に入職。人と人とのつながりをつくる「地域福祉」を仕事にしている。
荒井恵梨子|合同会社kei-fu
栃木県出身。2018年に長浜市木之本に移住。「地域の文化を穏やかに育てること」をコンセプトに2019年合同会社kei-fuを設立し、同年6月に元町医者の古民家をセルフビルドした「カフェと日用品 コマイテイ」を開店。
「福祉とデザイン研究会」が立ち上がった経緯
福祉とデザイン研究会が立ち上がった経緯を教えてください。
自分も含めて福祉分野の人たちは何か困りごとがあった時に、福祉分野で解決しようとする傾向が高いんです。他分野の人たちを頼ろうと思っても、絡み方とか相談の仕方が分からない。
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福祉分野以外の人たちの視点があまりないことが課題でした。
一分野だけだと、新たな視点を取り入れるのは難しいですね。
福祉分野以外の人たちと何かをしたいと思っていた時、長浜駅前にデザインセンター「長浜カイコー」*ができたんです。
*2022年当時。現在は、名前を残しながら学生向けの「サードプレイス」として運営をされています。
ある日、長浜カイコーの方々が社協に来られて、お互いの事業について話すことに。
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そこで「福祉の困りごとを企業のお仕事ベースで解決できたらいいのに」という話をすると「カイコーで何かできそうです!」と言ってもらい、次に会う時には企画書にまとめてくださいました。
スピード感がありますね!
企画書の内容こそが「福祉とデザイン研究会」です。
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企画書を持って来られたのが2022年の7月で、最初に公開セミナーを開催したのが9月。2ヶ月で形になりました。
カタチにするまでが早い…!
ちなみに、今、コーディネーターとして関わってくれている荒井さんもカイコーメンバーの一人です。
カイコーには立ち上げ時から関わっていました!
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福祉とデザイン研究会では、公開セミナーの企画や運営、各チームの打ち合わせ参加など、プロジェクト全体に関わっています。
結局2022年は公開セミナー3回と交流会を開催しました。
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セミナーをやってみて、参加者の皆さんが「考えるのも大事だけど実践してみたい」という考えになっていったんです。
ウズウズするほど実践的な学びだったんですね。
第2回「認知症とデザイン」
みんな夢を語って、あとは実践するだけ。そんな状況の中「あとは自分たちで頑張ってね」と見送るだけではダメだなと。
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実践をして商品やサービスを作るなど、参加者が最後までやり切るにはフォローする仕組みや一定の期間が必要だと考え、私たちが伴走することにしました。
プロジェクトを最後までやり切るのは、他のプロジェクトでも苦戦する部分…。
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山岡さんと荒井さんという、違うジャンルの専門家2人が伴走してくれるのは心強いですね。
商品・サービス開発のカギを握る「インクルーシブデザイン」
Webサイトには「『発達しょうがいと就労』『音楽を活用した介護予防』『インクルーシブデザインを取り入れた商品開発』の3つのチームがプロジェクトを行っています」と記載されているんですが、どういう風にチームが結成されたんでしょうか?
セミナー中のワークショップや交流会の意見交換会で出たアイデアを軸にチームを結成。
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各チームのテーマと相性が良いインクルーシブデザイナーに声をかけて、課題当事者・インクルーシブデザイナー・社協の三者が入ったチームができました。
インクルーシブデザイナー。初めて聞きました。
インクルーシブデザインは、高齢者、しょうがい者、外国人、生きづらさを抱える人など、これまで製品やサービスを考える際に除外されてきた多様な人たちを、巻き込みながら進めるデザイン手法のこと。
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それを支えるのがインクルーシブデザイナーです。
まさに、福祉とデザイン研究会においてカギを握る重要人物ですね!
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各チームの進捗はいかがですか?
各チーム、順調に進んでいます。進捗としては進みすぎているぐらい。
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チームメンバーそれぞれの熱量が高いのも大きく影響していますね。
これまでは各々が単独でやっていたことに対して、外部のデザイナーさんが入ることによって刺激が加わり、実践できることの幅や考え方が広がりました。
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課題当事者とデザイナー、コーディネーターという様々な視点が混ざることで、取り組みに対するスピード感が上がったと思うんです。
メンバー1人だけではできなかったことが、複数の力が集まることによってカタチになる…。
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チームになったことで「こんなこともしてみたい!」と、アイデアがたくさん出てきそうですね。
私は商品開発のチームにも入っていて、本当に多くのことを学ばせてもらっています。
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これまでの経験を踏まえて考えても、商品開発のほとんどがマイノリティの方を消費者に含んでいないことが多くて。
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障がいがある方をはじめとするマイノリティの視点が抜け落ちることって、実は危ないことなんです。
ボク自身もサービスを考える際に、インクルーシブデザインの考え方を取り入れられているかというと、言い切れる自信はないです…。
自分だけでなく家族が障がいを負って、いつマイノリティになるかって分からないですよね。
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実はマイノリティになることは日々の生活と隣り合わせであるはずなのに、商品やサービスを作る際には視点が抜け落ちるという。結構怖いことだと思うんです。
日々の生活と隣り合わせ。いつ自分の身に何が起こるかは分からないですよね。
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このタイミングで知れて良かったです。
今後やっていきたいこと
福祉とデザイン研究会が取り組む1つのテーマとして「課題当事者の声や視点を拾い、周囲の人を巻き込みながらプロジェクトを進められるインクルーシブデザイナーを地方で育てること」を掲げています。
都市部に比べて、地方ではデザイナーの数が少ないだけでなく、インクルーシブデザインについて学ぶ機会がほとんどありません。
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しかしながら、都市部でも地方でも同じぐらい、インクルーシブデザインが求められます。
今回のプロジェクトに関わった全員が、“インクルーシブデザイン”の視点を持ったプロジェクトの進め方を知ってもらえたらいいなと。
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第一線で活躍されている「一般社団法人シブヤフォント」さんにもアドバイスやコメントをもらって実践していくことで、今後新しくプロジェクトが立ち上がった時に、サポートする側に回ってもらえれば嬉しいです。
インクルーシブデザインの思考を持った人を増やすのは私たちの役割の一つでもあります。
実践できる人が増えることで、カタチにできるプロジェクトが増えそうですね。
困りごとを抱えている人とデザイナー、支援者の三者が揃った時、困りごとではなく、アイデアのタネになるんです。
「困りごとがアイデアのタネになる」良い表現ですね!
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どこかでWebサイトに載せよっと。
この場で決まるものなんですね(笑)
今後やっていきたいことはありますか?
今後も継続することで、福祉とデザイン研究会の仕組みを通していろんなタネが芽吹いていくと嬉しいです。
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1期生、2期生、3期生と続いて、歴史的に活動を振り返ることができたら最高ですよね。
今は福祉関連の参加者が多いので、企業の新人研修や企画開発の研修の場としても関わる人が増えると嬉しいです。
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福祉とデザイン研究会を多様な世界を知るきっかけに。ぜひ企業さんには若手研修や企業研修で活用してもらいたいですね。
アイデアをカタチにできる体制が整えば、困りごとはキラキラ光るアイデアのタネになる。インクルーシブデザイナーが増えた時、救われる人も救える規模も大きくなっていくことでしょう。
ボクたちに今できるのは、福祉の現場の声に触れて、自分から学びにいくこと。少し知識があるだけでも日常生活の見方が変わるはず。
次回、2024年1月27日(土)にも公開セミナーが開催されます。3チームがどんな発表をされるのか今から楽しみです。
<2024年2月 追記>
1月27日の公開セミナーの様子も踏まえた後編を公開しました!ぜひこちらもお読みください。
長浜航海記・航海士。永遠の野球小僧。「長浜にはしばらく帰ってこーへん!」と言いつつ、23歳のときに爆速Uターン。以来、地元のことがちょっぴり好きになりました。野球と筋トレ、オードリーが好き