長浜から世界へ!漆塗り職人が手がける「Kintsugi」が熱視線を浴びる理由
こんにちは。おばTです。
みなさんは、普段海外の人と接する機会はありますか?ボクは通っているジムですれ違うくらいで、ほとんど接する機会はありません。
ましてや仕事で接するなんて皆無の状態。それほど、長浜と海外の距離は遠いと思うんです。
そんな中、長浜には海外向けの商品を販売する職人がいらっしゃいます。職人さんの名前は、杉中伸安さん。長浜市国友町にある仏壇・漆工芸のお店「宗永堂」の2代目店主です。
海外でワークショップをしたり海外の方を長浜に招いたり。一体どんな経緯があって、海外進出を果たせたのか。
「職人×海外進出」という、気になるキーワードを聞いてきました。
杉中伸安|宗永堂
塗師歴37年。仏壇・漆工芸の店「宗永堂」の2代目店主。仏壇・寺院などの漆塗りを行う。指で模様をつけるオリジナル技法「砂紋塗(SAMON-NURI)」 の作品を製造・販売もしている。
<杉中さんが制作された商品>
実は、杉中さんはボクの友達のお父さん。少年野球のコーチとして長年お世話になっていました。そのため、ボクからすると職人さんというよりコーチのイメージが強いのが正直なところ。
どんな取材になるのかドキドキしながら行ってきました。
(コーチに取材するなんて変な感じ…)こんにちは〜!
久しぶりやな!デカくなったな〜。
そりゃ10年以上も経てばデカくなりますよ(笑)。今日はコーチではなく、職人さんとしてお話を聞かせてください!
仕事モードやな!よろしくお願いします!
「Kintsugi」が海を渡るまで
海外のお客さんと接点を持ったきっかけについて教えてください!
今一緒に仕事をしている、中小企業診断士の磯野研さんとの出会いが大きく影響しています。
磯野さんはどういう方なんでしょうか?
磯野さんは元々仕事でお付き合いのあった方。ある時、磯野さんが伝統工芸作品を海外販売できるサイト「The Kintsugi Labo JAPAN」を立ち上げることになったんです。
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そのサイトで商品を売り始めたのが最初のきっかけです。
最初から海外のお客さん向けにスタートされたんですね。商品は新しく作られたんですか?
新しく作りました。うちの商品は“金継ぎ”*という技法を使っているんですが、商品を作るまでに大きな課題があって…。
※「金継ぎ」とは、欠けたり割れたりした器を、漆を使って修復する伝統的な技法のこと。
どういうことでしょうか?
割れた器を手に入れることに苦労しました。
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自分で割って金継ぎを行うのは僕の意思に反するので、割れた器を手に入れないと商品を作れないんです。
修復する技術はあっても、修復するモノがなければそもそも作り始めることすらできないのか。
当初、割れた器はかんたんに手に入ると思っていたんです。でも、何人かの職人さんに「割れた器を買い取らせてください」と相談したところ、買い取らせてもらえませんでした。
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職人さんからすると、自分の未完成の作品や失敗作を世に出すのは、プライドが許さないんですよね。
正直、ボクも「捨てようとしていたモノに対してお金を出すんだから、すぐ手に入るだろう」と思ってしまいました。
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職人さんの意地やプライドがあるんですね。
どうしようかと思っていた時に、磯野さんが京都で卸しをやっている陶器屋さんと出会われました。その陶器屋さんは、阪神淡路大震災の時に割れてしまった器を捨てずに残されていたんです。
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磯野さんが「割れた器を金継ぎで修復して、商品として販売したい」と思いを伝えると、割れた器を譲ってくださることになりました。
救世主だ…!
そこから何人もの職人さんに相談し、一人二人三人と、ご紹介もいただけるように。
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磯野さんと陶器屋さんが出会われたことで、割れた器が手に入り、商品を作れるようになりました。
ちなみに、商品はすぐに売れたんですか?
サイトで販売し始めたのが2021年の9月。商品が初めて売れたのが、11月頃でした。
やっぱり時間がかかるものなんだなぁ。お客さんはどちらにお住まいの方だったんですか?
カナダの方でした。
おお!長浜で作った商品が海を渡った歴史的な瞬間ですね。
海外と日本の文化の違い
そもそも海外の人は、金継ぎのことをご存知なんでしょうか?
東京オリンピック・パラリンピックの閉会挨拶の中で、金継ぎについて「誰もが持つ不完全さを受け入れ、隠すのではなく大事にしようという考え方です」と紹介があったんです。
金継ぎにはそんなステキな考え方があるんですね。東京オリンピック・パラリンピックを通して、金継ぎを知った人も多そう。
年々、興味を持ってくださる方が増えてきましたね。
海外では、修復というより「精神的な面で繋がる」という捉え方をされます。
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「割れてもったいないから直そう」という意味合いが強い日本とは捉え方が違いますね。
文化の違いが反映されるのは面白いですね!
海外の人は金継ぎを施した商品を手に取っても、使うのではなく飾る人が多いみたいです。
「繋がりの象徴」とするなら、使うより飾る方がしっくり来るもんなぁ。
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文化の違いを感じることはありますか?
特に、修復依頼を受ける時に感じますね。海外の人たちは修理を出すモノに対して、それぞれ強い思い入れがあるんです。
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「おじいちゃんが大事にしていた器なんです」とか「おばあちゃんが使っていたお皿なんです」という感じ。
まさに「精神的に繋がる」ために修復依頼をされるんですね。
1,000円の器であろうと100万円の器であろうと、思いに違いはありません。
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「家族が大事にしていたモノだから修復したい」と依頼してくださるんです。
「1,000円なら新しく買う方が良いのに」と思ってしまいました。
税金や輸送料、修復費用を含めると、そこそこの金額になります。日本人からすると「修復に出すより新しいモノを買う方が安いやん」と思われることが多いでしょう。
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海外のお客さんの場合、費用が発生しても大事な人の大事なモノを修復したいという思いがあるんです。
人気の秘密は長年積み重ねてきた確かな技術
イギリス・ロンドンでワークショップを開催された、というお話も聞きました。経緯について教えてください。
「The Kintsugi Labo JAPAN」を通して発信を続ける中、ロンドンで日本文化を紹介しているカイリーさんという方から連絡が来たんです。
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当時「パンテクニコン」という施設で日本文化を紹介する企画があり、出展できる事業者を探していたところ、僕たちのことを見つけてくださったようです。
発信者に情報が集まる、とはこのことですね。
半年以上準備を重ね、無事にワークショップを開催。21名の方に参加していただき、大盛況のワークショップとなりました。
反響はいかがでしたか?
アメリカやイタリア、オーストラリアなど、海外から修復依頼の連絡が来るようになりました。
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少し前まで「コロナ禍が開けたら日本にも来てね」とやりとりをしていましたが、今では商品を手に取った方々が実際に日本に来てくださるようになりました。
楽しそうにワークショップをされている様子を、Instagramでいつも拝見しています!
サイトを見て商品が購入されたり修復依頼が入ったりする。商品を手に取った方が旅行のついでに宗永堂に寄って、金継ぎ体験をする。さらに、知り合いに宗永堂のことや商品をを紹介してくれる。
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かなり良い循環が行われるようになってきました。
あるお客さんは、娘さんの結婚祝いのための商品を購入しに、工房まで来てくださいました。さらに金継ぎ体験もして、非常に喜んでくださいました。
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自分だけでなく、家族を喜ばせるために宗永堂の商品を手に取ってくださったことが、何よりも嬉しかったです。
長浜にも足を運んでくださっているのがボクも嬉しいです。
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今後やりたいことについても教えてください。
金継ぎをきっかけに、長浜に来る方を増やせたら良いなと思っています。
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本うるし手塗りや堅地下地・呂色仕上げなど、日本特有の技術も伝えていきたいですね。
2024年で漆を始めて38年になります。これまで続けてきた技術や経験の蓄積が、今役に立っているんですよね。
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続けてきて良かったなと思いますし、今後もまだまだ技術を磨いていきたいと思っています。
色んな引き出しがあるから、さまざまな修復依頼を受けられるのかぁ。
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経験に基づいた幅広い引き出しこそが、宗永堂さんの“らしさ”でもあり、“オリジナル”なんですね。
最近では他職種の方々ともコラボのお話をいただき、良い意味で想定外の出来事が起こっています。
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一人でやるには限界があるので、漆業界や長浜を一緒に盛り上げられたら良いなと思っています。
今後の展開も期待しています!
一度きりではなくリピーターも増えているので、お客さんとの縁を大事にしながら今後もやっていきたいです。
長年積み重ねてきた知識や経験を土台に、時代に合わせて変化していく。杉中さんの姿勢は、ボクたちも見習うべきではないでしょうか。
長浜から世界へ。今後ますます海外からの需要が増えていくハズ。日本が大事にしてきた文化や職人の技術を海外の人たちは、どう評価するのか。今後の展開が非常に楽しみです。
コーチとしての尊敬から、職人さんへの尊敬に変わった取材でした!
お問い合わせや商品の確認は以下のサイトからできます。
長浜航海記・航海士。永遠の野球小僧。「長浜にはしばらく帰ってこーへん!」と言いつつ、23歳のときに爆速Uターン。以来、地元のことがちょっぴり好きになりました。野球と筋トレ、オードリーが好き