エネルギーで地域を強く!“全員主役”で長浜の未来を変える「エネシフ湖北」
こんにちは!
今年の夏は暑すぎて、すっかり蕎麦屋めぐりが趣味になった航海士のゆかりです。
それにしても最近の夏、暑すぎませんか!?
子どもの頃とか、普通にエアコンのない部屋で寝てたような…若いから我慢できたんか?と思って調べてみたら、2024年8月の平均最高気温は33.6℃、1997年は30.0℃。確実に上がっています。
ついでに140年前の8月も見てみたら、なんと28.1℃! (「気象庁 過去の気象データ検索」より)
そりゃエアコンがなくても夏を乗り切れるわ…っていうかこの気温の上がり方、やばくないですか?地球温暖化が確実に進んでいるのがわかります。
そんな時、ゼロカーボン*に向けて先進的な取り組みをするネットワーク「エネシフ湖北」が、なんかいろいろすごいらしい!との情報が。
ゼロカーボンって難しそう。でもいろいろ聞いてみたい!そして「地域の取り組みにデザインを!」と様々なところで聞かれるようになった昨今。気候変動と地域、そしてデザインってどんなお話になるんでしょう…そんな期待にワクワクしながら、メンバーの久木裕(くき ゆう)さんに会いに行ってきました!
*「ゼロカーボン」とは、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることです。人々の活動により排出されるCO2(二酸化炭素)などの温室効果ガスを削減し、削減しきれない排出量は森林の吸収分とバランスをとり、実質的に排出量をゼロにすることです。「みんなでゼロカーボンシティながはま」より引用
久木 裕 | エネシフ湖北 ボードメンバー
1978年生まれ。東京都出身。株式会社バイオマスアグリゲーション、株式会社こほくエナジー代表取締役。バイオマス専門のコンサルタントとして全国の企業、地域、行政などを支援する。2017年に長浜市木之本町に家族で移住。
エネルギー改革は、地域にチャンスをもたらす!?
「バイオマス専門のコンサルタント」って、どんなことをされるんでしょう?
バイオマスとは生物から生まれた資源で、具体的には森の間伐材や家畜の排泄物などが挙げられます。僕の会社では、日本中のいろんな地域でバイオマスをエネルギーとして利用していくためのサポートをしていて、そうした取り組みを通じて地域を活性化するお手伝いをしています。
これまでいろんな地域をサポートしてきましたが、長浜に移住したらやっぱり長浜のことをやりたいじゃないですか。
そう言ってもらえるとありがたいです。
市内でも再生可能エネルギーの開発が進められる中、エネルギーって環境のこととして取り組むべき問題というだけではなく、地域にとっていろんなチャンスを生み出すものなんだよってのをみんなに知ってもらいたいなと思ったんです。
実際、チャンスになるんですか?
なるんです。みなさんがエネルギーに払ったお金って、全部長浜市から外に出て行ってますよね。
確かに。電気代は大手電力会社に、ガソリン代は商社とか、最終的にはサウジアラビアとかに行くんでしたっけ?
はい。で、そうやって外部に流れているエネルギー代の総額が、年間300億円以上!
うわっ、1日1億円ぐらい流出してる…
その流れを変えるのが、脱炭素です。
脱炭素って簡単に言うと石油をやめること。そうなると、次に軸になるのは再生可能エネルギーです。太陽光、風力、バイオマス…そういった再生可能エネルギーって、地域で作れるんですよね。
確かに、太陽光パネルは市内でもよく見かけます。
地元でエネルギー事業をやる会社が出てくればお金は地元の企業に流れるし、たとえばバイオマスエネルギーの場合は木質チップが燃料なので、林業をやっている人や森林の持ち主にお金が行くようになる。
なるほど、これが「地域にとってチャンスにもなる」ということなんですね!
話すだけで終わらず、アクションに移す!
最近は、エネシフ湖北の主催で「エネシフミートアップ」というイベントを開催していて。
ミートアップ、共通の目的を持った人が集まる交流会のようなものですね。
せっかくみんなで意見を出し合ってるんだから、言ってるだけ、勉強するだけで終わるんじゃなくアクションにつなげたいと思って。
それ、すごーく大事なことだと思います!何かアクションにつながった例はあるんですか?
たくさんありますが、たとえばこれ。
よく使われているアルミサッシって、熱伝導率が高いから外の冷気や熱をそのまま室内に伝えちゃう。でもこんな風に木製のサッシだと、外気の影響を受けにくいから冷暖房も効きやすいんですよね。
本当だ!触っても熱くないです。
ゼロカーボンを実現するためには、一般家庭のエネルギー消費量を削減するのがすごく大事。
木製サッシの製造は、これから必要とされる仕事になるはずなんです。だからこれも、「話すだけじゃなくて、何かアクションに移そうよ!」って。そんな時、地元の伊香高校の先生たちが「一緒にできませんか?」と手を挙げてくれて。
伊香高校!ちょうど先日、「森の探究科」の取材に行ってきました。
じゃあ話が早い!
「授業で木製サッシを作って教室の窓に設置して、生徒たちに快適に使える教室づくりを体験してもらおう」って先生たちと盛り上がったんです。外部から専門の講師を呼んで、当日は地元の工務店さんにも手伝ってもらいました。
作業を進めるうちに生徒たちの表情がみるみる変わっていって、そのうち教える子が出てきたりして。本当にやってよかったです。
生徒さんたちも、はじめての体験で楽しかったでしょうね。
ただ、僕らとしては「みんな楽しそうだったね、よかったね」で終わりたいわけではまったくなくて。じゃあ、それを見た大人は何をするんだ?って。
そうか、ここで満足しちゃいけない…
実際に取り組んで成果が出たことは地域社会の仕組みに落とし込んでいかないと。
このとき現場でリーダーとしてプロジェクトを引っ張ってくれた大学院生が、卒業後に長浜に移住して大工の仕事をしています。彼を中心に、ワークショップでやったことをビジネスにして、地域に広げる動きができている。
まさにミートアップから生まれたアクションが、ビジネスに進化した事例!同じことがいろんなジャンルで起こっていくといいですね!
全国の仲間が集結した伝説のサミット「あんたの出番よ!」
そんな中、2023年の9月に大々的にやったのが「あんたの出番よ! 第1回全国地域エネルギーサミットinながはま」です。
2023年はちょうど長浜市からの委託で「ながはまゼロカーボンビジョン2050」を作った年で。
このタイミングで、本気でエネルギーシフトに取り組んでいる地域をみんなに見てもらいたいなと思って、知り合いの環境省の人に「どこかいいとこないですか?」って聞いて紹介してもらったのが、福岡県の八女市でした。
八女市にね、元は板金屋さんなのに今は一般家庭の屋根に太陽光パネルを設置してあげて、設備投資なしでクリーンな電気が使えるようにする事業をしている中島さんという人がいて。
会いに行っていざ話してみたら、すごく熱い人だった。
運命の出会いですね!
バーベキューをしながら「サミットやろう!」と盛り上がって、4ヶ月後には環境省の協力で「あんたの出番よ!」を開催していました。
すごいスピード感!
こういうイベントをやると、その場は盛り上がったのに結局は誰も動き出さないって状況に陥りがちじゃないですか。
わかる気がします…
だから誰でもはじめの一歩を踏み出しやすいように、周りがバックアップする。踏み出す人も、「こういうことをやりたいから、ちょっと手伝ってよ」とどんどん周りを巻き込んでいく。
お互いに「あんたの出番よ!」って声を掛け合って進んでいけるような環境を作りたかったんです。
私もあなたも地域のおばちゃんも学生さんも、みんな主役になり得る。全員が「あんた」なんですね!
サミットってだいたいは先進事例を紹介したり、成功した人が発表したりがメインじゃないですか。
でも「あんたの出番よ!」では、僕らと市役所の職員や環境省の人が壇上で「長浜でこういうことをやりたいけど行政の動きが鈍い。市ももっと協力してよ!」と言い合っているのを、250人の参加者にあえて見てもらって。
斬新!
キャラクターも作ったんです。「ウズウズ」はやりたいこと、「モヤモヤ」は思うように進まない歯痒さ。で、それを突破するには「あんたの力が必要だよ!」って(笑)
サミット名にもつながってる!
それを壇上で演じていたら、「うちの地域もそうだ」とか、「私はこんなことが手伝える」っていう意見がたくさん出てきて。後半は登壇者と参加者が入り混じって、そういう意見を自由に交換しながらウズ・モヤを突破する糸口を見つけていく、250人ごちゃまぜのワールドカフェの時間にしました。
サミットで仲間集めができたのは、すごく嬉しかったです。
まいた種が、どんどん形になっていく
全国の人が集まって話すと、長浜ならではの特徴も見えてくると思いますが、どうでしたか?
長浜のいいところは、「市民が街を作る」という意志と文化があることじゃないかな。
黒壁や曳山まつりを見ていると、みんなびっくりするくらい地域のために協力するし、お金も出し合うじゃないですか。僕は東京出身で「自分の街のために!」という思いはあまりなかったから、純粋にすごいなと思います。
今、長浜の企業5社で出資をして「株式会社こほくエナジー」というエネルギー会社を作って、八女と同じ太陽光パネルの事業を始めているんです。
工場の屋根に太陽光パネルを乗せて、僕らの会社が工場に電気を売るというモデル。
さすが「言い出したらちゃんとやる」ですね。しかも最初から規模が大きい!
あと、今度ゴミ焼却施設が更新されるのにあわせて、ゴミから生まれた電気を地域に販売できる仕組みを準備しているところです。
今までやってきたことが、これからどんどん噛み合って形になっていくと思います。
楽しみです!エネシフ湖北の活動には、何か目標やゴールはあるんですか?
目指しているのは「地域が自信を持つこと」です。
もちろん課題もたくさんありますが、それを突破できるヒトや技術や知恵も実は地域に転がっている。それらを掘り起こして地域でつながっていけば、多くのことは解決できます。
地方はどんどん衰退していくのが当たり前と思われている中、「そうじゃない、地域でやれるんだ!」ってことを証明したいし、みんなにも実感してほしい。この思いが僕らの原動力かな。
まさに「エネルギーで地域を強く」ですね!
温暖化対策と言われても、「節電しなきゃ」とか「でも根本的には電力会社がやることでしょ?」で考えが止まっていたこれまでの自分。
冒頭の「エネルギー事業は地域にチャンスをもたらす」という話から、もう目からウロコが落ちまくりでした!
他にも「話すだけで満足せずアクションに移す!」「全員が主役、あんたの出番よ!」など、数々の名言が飛び出した今回のインタビュー。難しそうなエネルギーの話が、お金の流れやワークショップを通じて驚くほどとっつきやすい形にデザインされていて、グッと身近に感じられるようになりました。
共に暮らす地域の中で、いろいろな人と一緒に目指す世界の形を思い描き、それをイベントや仕組みを通じて形にしていく。「あんたの出番よ!」というタイトルすらも、強いメッセージが込められたデザインなんだということが久木さんのお話からよくわかりました。
地域の力でクリーンなエネルギーが使えるようになれば、この街に住んでいること自体が嬉しくなりそう。長浜がエネルギーとともに歩んでいくこれからが楽しみです!
長浜航海記・船員。彦根生まれ、彦根育ち。会社員、ショップ店員を経て流れ流れてフリーライターに。オタク気質で気になる話題になると仕事を忘れて暴走しがち。カレーと猫とホラー映画があればしあわせ。