市役所も関わる伝統産業の作戦会議「産地越境」。企画を支える人たちのアツい想い
こんにちは。さわです。
1月26日に公開した前編の記事では、全国の伝統工芸やものづくりに関わっている人たちが長浜に集まり、これからのものづくりについて考えるプロジェクト「産地越境」の様子をお伝えしました。
産地越境を企画したのは、長浜航海記の船長でもあるデザイナーのタカさん。
タカさんの事務所にお邪魔し、プロジェクトへの思いや企画のこだわりについて聞いたところ、職人の伝統に対するアツい想いに心を打たれたのでした。
取材の終わりがけに、タカさんからある提案を受けたんです。
産地越境を一緒に企画した、浜縮緬工業協同組合・理事長の吉田さんにも話を聞いてみるのはいかがですか?その後に、長浜市役所の方々のお話も聞くと、もっと裏側の話を聞けるかもしれません。
そこで、産地越境・後編となる今回は、企画をされた方々と10月のプロジェクトに参加された方々にお話を聞いてきました。
▼企画者▼
浜縮緬工業協同組合・理事長の吉田和生さん
長浜市商工振興課・福島 麻奈美さん、瀬戸口 敏史さん
▼参加者▼
株式会社松川レピヤン・松川晃久さん
清水紙工株式会社・清水聡さん
これまで産地を守り続けてきた職人。そんな職人をデザインの力でサポートするデザイナー。そして、市民の「やってみたい」を支援する市役所。
産地越境には、分野や地域を越えた方々のアツい想いがありました。
<産地越境について>
「産地越境」は、2023年10月にシルクのまちづくり市区町村協議会事業の一環で開催されたプロジェクト。当日は一都一府九県、総勢50名のものづくり従事者や自治体職員が参加し、盛り上がりを見せました。
詳細はコチラ:産地越境プロジェクト(浜縮緬工業協同組合ホームページより)
ライバルと一緒に考える。産地の未来は“越境”がヒントに
吉田和生|浜縮緬工業協同組合 理事長
浜縮緬工業協同組合の理事長と有限会社吉正織物工場の代表取締役を務める。組合では展示会の開催やギフトショーへの出展、長浜市着物プロジェクトへの協力など、白生地の新たな可能性を広げるべく、さまざまな取組みを行っている。
長浜航海記で紹介した記事はコチラ
こんにちは〜!産地越境についてタカさんにお話を聞いたんですが、職人側からの視点もお聞きしたく、本日はお時間をいただきました。私も10月13日に開催された「産地越境トーク」に参加したのですが、プロジェクトについてもう少し詳しく聞かせてください!
おお!参加してくれていたんですね。
参加者の熱量をダイレクトに感じられた素晴らしい機会でした。吉田さんがお仕事をされている業界は今、どういう状況なんでしょうか?
私たちの業界は、コロナ禍の影響を大きく受けたんです。事業者の数も生産量も大きく減ってしまって。
大打撃ですね…。
各産地が自分達だけでは頑張れなくなっているんです。今後のことを考えると、それぞれの産地で協業していく必要があるでしょう。だからこそ、協業のきっかけづくりができたらと思い、産地越境を開催しました。
今回のプロジェクトにはそんな背景があったんですね。ちなみに、産地同士は競合していないんですか?
競合しているところもあります。しかしながら、競合して争っている場合ではありません。そもそも業界自体が縮小していますし。競合かどうかは置いておいて「未来に向けて同志としてみんなで考えよう」というのが、このプロジェクトの肝になっています。
そうだったんですね。実際に産地越境のプロジェクトを開催した感想を教えてください。
同じ業界の人たちだけでなく、他業界の方々と話せたことも大きかったですね。自分にはない視点のお話を聞くことで、普段の業務に活きるヒントをいただきました。プロジェクトが終わった今、事業者同士が手を取り合い産地として発展できるよう、プロジェクトが続いていくと良いなと思っています。
事業者の活動を支援するのが市役所の役目
市民のチャレンジを支援する市役所は、どんな思いから産地越境を開催したのか…。タカさんや吉田さんのお話を聞いて、気になって来ました。今日はよろしくお願いします!
よろしくお願いします!
よろしくお願いします!
早速ですが、今回の産地越境のポイントはズバリどの辺ですか?
これまでは産地の現状を各産地の市役所が受け取るという、一方通行の研修やプロジェクトが多かったんです。
一方通行となると、参加者の熱量もそこまで上がらないだろうなぁ。
そうなんです。だからこそ、市役所として「どんな関わり方をするのが参加者にとって良いんだろう?」と考えることを大事にして企画しました。
産地越境を経て何か変化はありましたか?
市民の皆さんを支援していく立場として、事業者の希望を知ることができ、支援のあり方を考えるきっかけになりました。
事業者が抱える課題や市役所との理想的な関わり方について知ることができましたね。
そうだったんですね!企画の部分ではいかがでしたか?
石井(タカ)さんや吉田さんと一緒に企画をすることで、私たちだけでは考えもつかないアイデアを出してくださり、非常に心強かったです。
そもそも、産地越境は「シルクのまちづくり市区町村協議会」の取り組みの一環で、これまでは取り組みの紹介や講演を聞くことが多くて。
内容を変えたいと思ってはいたものの、新しい取り組みをするのはなかなかエネルギーがいるじゃないですか。しかも、業界によって厳しいルールや慣習などがありますし。
長く続く伝統産業ほど、新しい仕掛けをするのは大変ですよね…。
そうなんです。そんな中、今回は「面白そう」「やってみよう」というエネルギーが生まれるよう、石井さんが企画をしてくださいました。
最後に、産地越境の今後について教えてください。
参加者同士が繋がり、新たな展開が生まれるきっかけになれば嬉しいです。「こんなことをやりたいんだけど〜」と言ってもらった時に、事業者を支えるのが私たちの役目だと考えています。
今後も良い循環が生まれるよう、積極的に発信もしていただけたら良いなと思っています
プロジェクト参加者(職人)の声
他業界の方々の話や市役所の話を聞くことで、課題だけでなく新たなアイデアが浮かんできました。今回見えた課題やアイデアを持ち帰り、自分たちの事業に活かしたいと考えています。
このプロジェクトが開催できるのも、長浜市の精力的なバックアップがあってこそ。市役所が伝統について考え、動いている姿が素晴らしいと感じました。
場所や分野を越えて、伝統産業の未来をつくる。
このプロジェクトを通して知れたのは「課題を共有することの重要性」「場所や分野を越境することで生まれる新たなチャレンジ」があること。
産地が直面している課題に目を向け、赤裸々に語ることのできるコミュニケーションのデザインから、産地を越境するきっかけが生まれていました。
私は教育分野において日々チャレンジしていますが、教育の場を守っていくだけでは発展も成長もできないと感じています。
私も自分の分野を越えて、新たなチャレンジをしていきます。
長浜航海記・船員。京都から長浜へ移住し、株式会社crevus designを設立。小学生向けの体験教室やデザインなどのクリエイティブ事業をしている人。ど根性地べた這いつくばって進むタイプ。