じわっと効いて未来を変える。演劇で長浜がもっと面白くなる。

こんにちは!大谷と申します。

僕は普段、長浜市で演劇活動をしています。2023年にこの世界に飛び込んだのですが、気付けばもう3年…。3年!?光陰矢の如しとはこのことですね。
そんな長浜で、僕が「舞台のことならこの人!」と真っ先に名前を挙げるのが、今回お話を伺う磯崎真一さんです。
実は来年1月の舞台で共演予定で、いま絶賛稽古中なんですが……誰よりも声を出して、誰よりも笑って、誰よりもはしゃいでいるのが磯崎さん。「2025年は人生で一番忙しかったね〜!大変だね~!」と、稽古場でもよく仰っています。なぜかニコニコしながら。
……いやいや、なんでそんなに元気なんですか!?
今回はそんな磯崎さんに、普段は聞けない「演劇の原点」や「長浜への想い」、そして「これからの長浜でやりたいこと」を、聞いてきました。
役者として、長浜市民として、そして仲間として、ここは本音で語り合わせてください!

目次
演劇をたずさえて長浜をもっと楽しいまちに!文化を仕事にする覚悟とやりがい。

お邪魔します!
おー、ゆうまくん!こっち座ってー。
失礼します!いやー、この公演ラッシュのお忙しい時期に本当にありがとうございます。
いえいえー!ゆうまくん、この土日はスタッフお疲れ様でした。今週末もSTAGE※手伝ってもらうし、来週は『婿殿※』やし大変だねー。
※STAGE:中高生向けの演劇の習いごと。
※『婿殿はつらいよ』:男女共同参画をテーマにしたオリジナル舞台作品(作:井口真帆/演出:磯崎真一)。田舎の「あるある」をコメディで描いた作品。
ありがたい限りです。こんなに多くの現場でご一緒しているのに、改めてちゃんと聞くのは初めてな気がするんですが、磯崎さんって普段どんな活動をしているんですか?
僕は「演劇」をやってるんだけど、もう自分がバリバリ役者として出ることはあんまりないかな。今は演出したり企画を立てたり、プロデュースしたり。そういう動き方が多いね。
たしかに。2025年だけでも、磯崎さん演出の舞台に6本も出演しました!学校でも地域の会館でも、本当にいろんな公演を一緒につくらせていただきました。

めっちゃ出てるね(笑)!ありがたいことに、呼んでもらえる場所が増えてきたなぁとは思う。
正直、初めてお会いしたときは「長浜のすごい人」っていうイメージが強かったんです。でも近くで見ていると、誰よりも楽しそうなんですよね。背中で「ここまでやるんやぞ」って見せてくれてるんだと感じる瞬間が多くて。
(笑)。まあ、しんどいけどね。演劇って、苦しい時間の方が確実に長いから。
そこなんですよ。演劇って、多くの人からすると「趣味」のイメージが強いと思うんです。
僕は演劇で生活させてもらってるし、もちろん責任も大きい。仕事としてやってるからこそ、僕のなかでは「演劇そのものを極めたい」というのと同じくらい、「演劇をツールとして使って、何ができるか」という感覚が強いんだよ。
演劇をツールとして。
そう。いい作品をつくってお客さんに楽しんでもらうのは大前提。そのうえで、たとえば中高生に演劇を体験してもらえる場をつくったり、学校で子どもたちと一緒に作品をつくったり、市民参加型の舞台を企画したり。演劇とか文化芸術を「道具」として使って、長浜をちょっとでも楽しい場所にしていきたい、というのが今一番やりたいことかな。
「まずまちや人に対してこういう変化を起こしたい」が先にあって、そのための手段として演劇を使っている、みたいな感覚なんですね。
うん、そんな感じかもね。
とはいえ、しんどい時間も多いなかで、それでも続けちゃうのは「楽しい瞬間」があるからだと思うんです。磯崎さんにとって、一番楽しい時間ってどこですか?
役者としてやっているときは、台本をもらって、セリフを覚えて、自分のなかでやっと自由に遊べるようになった瞬間かな。苦しい期間を越えると、急にセリフが「遊び道具」になる瞬間があるんだよ。そのときが、一番クリエイティブで楽しい。
いやぁ、台本覚えないと何も始まりませんもんね…。耳が痛い…。
最初は、セリフ覚え、演出家のダメ出し、インプット…修行みたいな時期が2〜3ヶ月あって(笑)。本番1週間前くらいに、やっと「遊べる」ようになる。
面白いところですよね。演劇って、稽古期間に比例して右肩上がりで上手くなるわけではなくて、1週間前…下手したら前日とかで急に伸びますよね。
本番でも成長するよね(笑)。お客さんの前で演じているときに、「あ、このセリフってこういう意味だったのか」とか「この動きか!」とか、ふっと気付く瞬間がある。稽古中にやれって話なんだけど、本番じゃないとわからんことがあるんだよね。
あの瞬間の全能感はハンパじゃないですね。本番後の達成感も合わさって、気付くと「次の公演いつですか?」って聞いてる気がします。
公演が終わった後に全部片付けて、まっさらにした劇場を見る瞬間も好きなんですよ。いつもその写真を撮ります。その瞬間も好きだね。

あ、いつも撮影されていますよね。
写真を撮ると、「またやろうか」と思えるんだよ。しんどくて、「何でこんな思いまでせなあかんのやろ」ってなる瞬間もあるんだけどね。それを経て、もう一度と思えるのが大事。
そうですね。しんどい瞬間も多いからこそ、継続して現場に立ってくれている先輩の姿って、僕ら若手にとってものすごく大きいんですよね。
みんな辞めちゃうからね、演劇。20代の強いエネルギーがあるうちは頑張れるけど、30代になって結婚して子ども育てて…ってなると、どうしてもしんどくなってくる。もちろん、それはそれで全然悪いことではないんだよ。でも、「磯崎さんがやってるんだから、言い訳できないよな」って言ってもらえるような、ひとつのモデルケースではありたいなと思ってるよ。
とても腑に落ちました。磯崎さん、稽古場では僕たちよりもはしゃいでくださっているので、すごく励みになります。
楽しいんだよ(笑)!もちろん無理して続ける必要はないけど、「やろうと思ったらできるんやで」ということを、見せ続けるのがパイオニアとしての使命だと感じます。
人生は「もっと失敗してもいい」。絶望から引き上げた演劇の引力。

「NPOはまかる」の話も聞かせてください。今は長浜の文化芸術といえば「はまかる」というイメージもありますが、最初からNPOをつくろうと思っていたわけではないんですよね?
全然(笑)。むしろスタートは、「長浜、居心地悪いなぁ」だからね。
もしかして、東京に行かれたのもそのあたりがきっかけですか?
曳山祭もそうだし、地域のつながりが濃くて、若いときは息苦しく感じてた側の人間だったからね。「こんなとこ帰ってきたくないわ」って思ってた。東京に夢を見て、10年くらい向こうで役者やってたんよ。親父が亡くなったのをきっかけに帰ってきたけど、ほんと絶望だったね(笑)。
……。
帰ってきたはいいけど、「なんも楽しいことないなぁ」と。最初はバイクの免許とって、演劇なんかやらんとこうと思ってた。
そこからまた演劇に戻っていくと。
結局ね。不思議なもので、あれだけ苦い思いをしたのにやっぱり「演劇やりたいな」ってなってきて。どうせやるんやったら「自分がやって楽しいまち」にしたいと思ったんですよ。誰かが変えてくれるの待っててもしゃあないし、「これ、自分が動かんと変わらんな」と腹くくったのが最初かな。
最初からNPOという形を思い描いていたわけではなく、気付いたら今の形になっていくんですね。
「頼まれごとは試されごと」。どんな小さなお仕事でも、一個ずつ受けていって。そのうちに、「これはちゃんとした土台がないと続かんよね」という話になって、いろいろ経て「NPOはまかる」の形になった、という感じかな。
長浜で10年近く演劇活動をされるなかで、「ここだけは絶対にブレたくない」という軸はどこにありますか?
一番はやっぱり、「演劇をツールとして」という感覚かな。作品づくり自体は大好きなんだけど、それだけだと本当に趣味みたいになっちゃうから。
何か課題があって、その解決のために演劇を使っているイメージでしょうか。
うーん。演劇をやったり観たりしたからといって、明日から急に何かの能力がアップするとか、問題が一気に解決するとか、そんな変化はないんだよね。でも、演劇を通して他人の立場を疑似体験したり、「あ、自分こんな見方してたんだな」と気付けたり。目の前で人間が演じるからこそ、「残るもの」って絶対あるんだよ。その、ちょっとした気付きが、実は後々じわじわ効いてくる。漢方みたいなもんだね(笑)。
漢方ですか。風邪薬みたいに「風邪症状だけに効く」んじゃなくて、自分で気付いたことが土台になるから、色んな場面にじわっと効いてくるというか。
そういう後から効いてくる感じがあるからこそ、演劇って狭い世界に見えても、魅了される人がいなくならないのかもしれませんね。実際、長浜でも若いアーティストがどんどん増えてきていますし。磯崎さんから見て、若い世代には演劇仲間としてどんなことを伝えたいですか?
もっと失敗していいんだよ。今の子たちは、失敗したくないから情報を集めて、できるだけ無駄を減らそうとするじゃないですか。もちろんそれ自体は悪くないんだけど、芝居も人生も、遠回りでしか身につかんことが本当にいっぱいあるからね。
僕も、肝に銘じます。
東京での10年も、大失敗やと思って長浜帰ってきたんよ。「人生フルベットしたギャンブル負けたわ〜」って感じで(笑)。でも今振り返ったら、あの10年のインプットと現場経験がなかったら、今の仕事はできてないなと思う。
企業・学校・行政、コミュニケーションはすべてに通ず。無形だからこそ残るものがある!
きっと、磯崎さんのお話を聞いて「一緒に何かやりたい」とか「うちでも演劇を取り入れてみたい」と思った方もいると思います。どんな形で相談するのが良さそうですか?
予算や規模感も、まずは一緒に整理していくイメージですか?
そうですね。「このくらいの予算で、これぐらいの人数でやりたいんですけど…」って話してもらえれば。大事なのは「演劇をして終わり」にしないことだからね。
ただやるだけじゃなくて、その会社や学校、地域の人たちにとって「意味のある時間」にしたい、ということですね。
そう。演劇はあくまでツールですから。課題や作りたいもの、届けたいメッセージに合わせて一緒に作っていきましょう。
でっかい劇場を長浜に!文化芸術が渦巻くクリエイティブな地域を目指して。

いま磯崎さんが見ておられる未来の長浜はどんなまちですか?
でっかい劇場を建てるのが夢なんですよ。
劇場ですか。
平日でも誰かが稽古してたり企画会議してたり、ワークショップしてたり…。それとセットで、「長浜で演劇を体系的に学べる場所」もつくりたい。大阪や東京に行かんでも、「ここで学べるやん」っていう状態にしたい。
文芸会館(長浜文芸会館)ではなくて、ですもんね。
そうだね。文芸会館は少し古くなってきているし、どうしても「発表の場」になってしまいがちだからね。僕が夢見るのはクリエイティブな活動の拠点、というイメージかな。
なるほど。だからワークショップや学びの場といった構想があるんですね。
長浜で基礎から学んで、長浜で実践できる。そういう流れをつくりたいね。あとは…あ、最終的には「まちなか演劇祭」みたいなのもやりたい!町家やお寺、商店街も巻き込んで長浜全体で演劇を楽しむ感じ。
おおー!色んなアーティストを県外からも呼んできたいですね。まちぐるみで演劇やアートを楽しめる日が来たら、めちゃくちゃワクワクしますね。
40代は観光や歴史と組み合わせたプロジェクトを増やして、50代でまちなか演劇祭を本格的にやる。60代で劇場づくりに深く関わっていきたい。そんなざっくりしたロードマップは考えてるかな(笑)。まだまだ頑張りますよ~!
磯崎さんと初めてお会いしたときは「長浜のすごい人」という印象だったのに、実際はそれに加えて稽古場で一番はしゃいで、一番体当たりで、誰よりも楽しそうに舞台をつくる人でした。
磯崎さんが率先して演劇を楽しんでくださっているからこそ、僕たちは安心して挑戦できるし、「もっと頑張らないとダメだ」と背中を押されます。
でもその明るさの裏には、痛みや葛藤を抱えながらも前へ進み続けてきた強さがあって、その姿には演劇人としてだけでなく、人生の先輩としても本当に憧れます。
そして、もしかすると20年後には後輩が「大谷さんって稽古場で一番楽しんでますよね!」なんて笑いながら言ってくれるかもしれません。いま僕が見ている磯崎さんの背中を、次は僕が誰かに見せる番になる。そんな未来も少し想像しています。
背中から背中へ、想いが受け渡されていく。
その流れのなかに自分もいれたらいいなと思いながら、これからも演劇を楽しんでいこうと思います!
磯崎さんへのお問い合わせは下記のSNSや公式サイトからご連絡ください。
公式サイト:https://hamacul.or.jp/

長浜航海記・船員。西浅井町生まれ。学生起業後、関東からUターンして株式会社コネクトビビを設立。「伝わらない/売れない/埋もれているを、”デジマ”で突破」をテーマにWebマーケティングの戦略設計・実行をおこなう一方、地元長浜で舞台役者・プロデューサーとしても活動。なにより犬が好き。



