森を活かした新しい学びのカタチ。滋賀県最北の高校に「森の探究科」がオープン!
こんにちは、航海士のゆかりです!
突然ですがみなさん、質問です。
琵琶湖は滋賀県の6分の1ですが、森林はどれだけか知っていますか?
実はなんと、2分の1!でっかい琵琶湖に注目しがちですが、滋賀県の半分を占めるのは「森林」なんです。衝撃のあまりいろいろ調べていたら、長浜市にある滋賀県立伊香高校に、森に特化した学科ができるという情報が!
高校で森の勉強ってアリなの?そもそも森ってなに?林業のこと…? いろんな疑問がわいてきたので、伊香高校に行って気になることを聞いてきました!
「森の探究科」プロジェクトメンバー
左から、地域連携コーディネーターの副島拓歩さん、臨時教諭の大久保卓也先生、校長の大森文子先生、地域連携コーディネーターの伊藤利恵さん、教諭兼魅力化推進室室長の富山昌彦先生。
きっかけは、生徒を集めるための魅力発信?
そもそも県立高校で、普通科の中に新しい学科ができるのってよくあることなんですか?
いえいえ。県内では守山北高校とうちが初めてです。
ということは、県内初!? いつから始まった計画なんでしょう?
2022年からです。伊香高校は、昔は大きな学校だったのですが、今は生徒数が減っていて。
それを知った地域の方たちが、「何とかしないといけない!」とポスターなどを作って盛り上げてくださるようになりました。
それはやっぱり、少子化で生徒数が減っていく中、学校を存続させるために?
はい。地域の方々からの後押しもあって、学校としては、2022年から本格的に「高校の魅力化」に取り組み始めました。
高校なら、まず制服を変えようとか、校舎をきれいにしようとかが思い浮かびますが…なぜ新しい学科を作ることになったのでしょう?
最初は他にも案があったんです。
たとえば「スポーツを活発にして甲子園に出よう!」とか、「服飾デザイン科を作ったら生徒が集まるのでは?」とか。
そんな中、伊香高校は滋賀県内で最北にある高校だから、北部ならではの地域資源を活かしてうちでしかできないことをやろう、というのがポイントになりました。
その案を、最初に出した人はいるんですか?
誰って言われると…私かな(笑)
森のことならこの地域には仕事として関わっている方もいるし、伊香高校には20年前から「自然環境コース」があるので、まったくゼロからのスタートじゃないのも大きなポイントでした。
森を使って、ここでしか学べないことを
森の探究科では、どんなことが学べるんですか?
普通科のベースになる5教科に加えて、3年間で「森のキホン」「森の恵み」「持続可能な社会」「森の未来創造」の順に学んでいきます。森の生態系や再生可能エネルギーと並行して、森に関わる伝統や文化についても学べるカリキュラムにしています。
文系・理系にとらわれず、森のことを広い視野で学べるんですね!
実際に、森に入るような授業もあるんですか?
学校の裏にある地域の共有林と、あとは少し行ったところに「山門水源の森」という湿地を含む森があって。生態系がとても豊かな場所なので、こういう場所で実習をさせてもらおうと思っています。
自然環境コースの授業では、森の探究科でやりたいことを先行授業という形で少しずつ取り入れていて。
これはアロマセラピストの方に来てもらって実施した、アロマ精製の様子です。実際に山に入り、植物を採集してアロマを精製するまでを、生徒に体験してもらいました。
他にもこの地域には、森や自然に関わる仕事をしている方がたくさんおられます。林業はもちろん、染め物や養蜂、養蚕も。
近くに猟師さんもいて、鹿肉を提供していただいてジビエ料理を作る授業もしました。
ただ食べて「おいしいね」で終わるのではなく、なぜ鹿が増えているのか、それに対してどんな対策が必要なのかまで、事後学習として勉強しました。
鹿肉を食べてその味を知りながら、鹿を撃つ意味も一緒に学べるんですね。
とにかく周りにいろんな方がおられるので、そういうネットワークを活用して授業を作っていこうと考えています。
森の探究科で予定している授業も、やっぱり実習が多いんですか?
はい。近くに見て学べる場所や、教材になるものがたくさんあるのが伊香高校のいいところですから。
本当に。森を切り口に、3年間でこんなにいろいろ学べる学校って多分ないですよ!
この地域では、いろんな形で森に関わる方が増えています。林業はもちろん、木工や森を使ったレジャーも。地域の資源を使って自分の仕事を作っている方々に会って、いろんな生き方ができることも知ってほしいなと思っています。
実習は、生徒の可能性を見つけるチャンス!
森の探究科の準備をする中で、思い出に残っているエピソードはありますか?
私が印象に残っているのは、この近くにある子ども園の園児たちを呼んで、生徒たちに樹木の説明をしてもらった時のこと。
伊香高校はもともと農業学校だったので、敷地内にいろんな木が植えられているんです。当時の先生が、授業で生徒と一緒に植えていたみたいで。
はじめての取り組みで不安だったのですが、思った以上に一生懸命やってくれて。
それは、特別に選ばれた精鋭部隊だったとか?
いえいえ、授業を受けている普通の生徒たちです。
たとえば資料を片手に「これが桜、これはどんぐりの木」とたくさん見せて回る子もいれば、「これは香りがする葉っぱだよ」と園児が興味を持ちそうなことから話を広げる子もいて。
いろんな方法で紹介をしてくれていました。
いつもはおとなしいタイプの子が、まさかこんな風に抱っこして説明するなんて思ってもみなかったよね。
普段の授業ではわからない一面ですね。なんだか目頭が熱くなってきました…
授業の後にアンケートを取ったら、「僕はもっと生き物のことを勉強したい」とか、「花のことも紹介したかった」とか、すごく前向きな意見がたくさん出てきて。それぞれの生徒が持つ可能性を感じさせてもらいました。
あらゆる人が、楽しみながら通える学びの場に
森の探究科は、どんなところを目指しているんでしょう?
初年度の定員は40名ですが、これからもっと人気が出てクラスを増やしたり、地域にも人が増えたり。そこから森や自然に関わることに従事する人が増えるといいなと思います。
今は滋賀県内だけの募集ですが、やがては全国から来てもらえるようにしたいですね。
すごい!壮大ですね!
個人的に思うのは、人付き合いが苦手な子もいるんじゃないかということ。
人と話すのや人間関係を作るのが苦手な子は、クラスで孤立しがちです。
そういう子でも、実習や体験を通して楽しみながら来られる高校になればいいなと思っています。
もともとは、地方創生のために始まったプロジェクト。
木之本のまちを元気にしたいというのが地域の方々の思いです。
前例がない分、これからの地方創生のお手本になるかもしれませんね。
「森を学ぶんじゃない、森で学ぶんだ」という話をいつもみんなでしていて。
森から何を学ぶかは、多種多様ということですね。
森は僕たちが生きている社会と直結しています。
そう思うと、世の中そのものを学べる学科なんじゃないかなって。こういう学びの方法がスタンダードになれば、未来はすごく明るくなるんじゃないかと思います。
森の探究科の話をすると、大人の方がすごく関心を持ってくれるんです。
「私も行きたい」とか「やってみたい」って。これは妄想ですけど、森の探究科の定時制なんかも作れたらいいなと思ったりしています。
自分から勉強したいと思うのって、実は大人になってからだったりしますもんね。
そうそう。家族や子どもができてから、「森ってすごく大事だったんだ」って気づくこともあると思うんです。間口を広げることで、いろんな世代に対する学び直しの機会になれたらいいなと思います。
そういう会社を作るのもいいかもよ。
そんな会社ができたら、改めて「この地域、なんかすごいぞ!」ってなりそうですね!
はじめは「林業で活躍する人を増やしたいのかな?」くらいに思って突撃した森の探究科。
いざ訪れてみたら、「森から学べることは全部教える」そんな先生たちの意気込みが伝わってきました。新しい学科の話が、生徒の可能性を引き出して、生き方の選択肢を増やして、地域の課題解決にもつながるなんて!
「デザインは仕組みづくり」とよく言いますが、こうやって新しい学びの仕組みや、教育を通じたこれまでにない体験を創造するのも、これからの社会に必要なデザインの形なのかもしれません。地方創生のために高校を魅力化したら、森の生態系が守られて、地域の課題が解決して…そんな奇跡の循環が見事に成り立っているように見えました。
森の探究科が開設されるのは、2025年4月。詳しい学習内容や最新情報を知りたい方は、伊香高校のホームページをぜひチェックしてみてください!
長浜航海記・船員。彦根生まれ、彦根育ち。会社員、ショップ店員を経て流れ流れてフリーライターに。オタク気質で気になる話題になると仕事を忘れて暴走しがち。カレーと猫とホラー映画があればしあわせ。